事務職の自己PRは、強みの名前と、その強みが出た場面の2つがそろえば書けます。厚生労働省がジョブ・カード制度で配っているエントリーシートの様式には、自己PRの欄に「仕事に活かせる自分の強みや、裏付けするエピソードなどの自己PRを記入」とあります。1売上の数字のような目立つ成果は、なくてもかまわないのです。
手がかりは毎日あたりまえに回している仕事のほうにあります。締め日から逆算して準備する。数字が合うまで照らし合わせる。聞かれる前に案内を出しておく。うまくいっている間は誰の目にも留まらない、そんな仕事のやり方に名前を付けていきます。
自己PRは「強みの名前」と「場面」でできている
毎日あたりまえにしている仕事の中に、自己PRの材料があるイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
「几帳面です」「責任感があります」。強みを書こうとして、こんな一言で手が止まったことはありませんか。言葉そのものは間違っていません。ただ、読む人には、その几帳面さがどんな仕事で、どれくらい出ているのかが見えないのです。
ハローワークの職務経歴書の手引きには、強みを表すキーワードの例が2ページにわたって並んでいます。2「実行する能力」の欄には正確性、計画性、迅速性があり、どれも事務の仕事にそのまま重なる言葉です。同じ手引きの記入例では、営業事務に応募する人の自己PRが「細かい数字の作業を正確に処理できます。」の1行から始まり、そのすぐ下に、前の職場でその力を身につけた経緯が続きます。3
強みを1行で言い切り、すぐ下に裏付けを置く形です。「正確性があります」だけでは、中身が見えません。反対に「毎月〇件の伝票を処理しました」だけでは、何が得意なのかを読む人が探すことになります。名前と場面を並べれば、1行目で何の話か、2行目でどれくらいかが伝わります。
場面の材料になる件数や期間の拾い方は、職務経歴書の書き方 事務職の実績を数字で伝える項目と書き方の例で紹介しました。ここでは、その手前にある「何を強みと呼ぶか」から考えます。
毎日の行動から、強みの候補に○を付ける
候補探しに使いやすいのが、ジョブ・カードの「実践的能力証明シート」に付いている振り返りワークです。第3面の「自分の『強み』」には、仕事での行動が30個並び、自信があるものに○を付けていきます。記入の案内には「あまり考え込まずに、直感的に選んで下さい。」とあります。4
30個のうち、事務の毎日に近いものを抜き出すと、次のような行動です。
- 仕事にミスがないかチェックする
- 自分の仕事の流れを把握する
- 組織の命令系統・ルールに従う
- 手を抜かず真面目に対応する
- 必要な情報を集める
- 目標を決め、課題を明らかにした上で仕事の計画を立てる
- 自分の言いたいことや情報を正確に伝える
どれも、事務の人なら毎週のように手を動かしている行動ですよね。ここに○を付けるのは自慢ではなく、事実の確認です。
この表では、行動ごとに、どの区分の能力と結び付くかが●で示されています。たとえば「仕事にミスがないかチェックする」の●は、「マネジメント(管理すること)」の列。地味に見えていた確認作業も、表の上では、仕事を管理する力として数えられているのです。もっとも、●は自分の能力を考えるときの「参考情報」という位置づけで、答えを1つに決めるものではありません。
○を付けるときは、次の順に進めると迷いません。
- 先月の仕事を、週ごとに書き出す。
- 30の行動の一覧から、毎週のようにしている行動に○を付ける。
- ○を付けた行動ごとに、それをした場面を1つずつメモする。
- メモの中で、応募先でも使えそうな部分に下線を引く。
最後の下線はジョブ・カードの職務経歴書の様式から借りた工夫です。職務の中で学んだことや得られた能力を書く欄に、「応募書類に活かせる部分は下線」と添えてあります。5ハローワークの手引きも、強みをうまく整理できないときは、仕事の中で「心がけたこと」を思い出したり、これまでの仕事に共通して「できること」を書き出したりする方法を挙げています。6
○が10個を超える人もいるかもしれません。それで大丈夫。次の手順で、2つに絞ります。
○を付けた行動に、20の能力の名前を当てる
実践的能力証明シートの第4面には、20の能力が5つの区分に分けて並んでいます。区分はシンキング(考えること)、アクション(行動すること)、コミュニケーション(分かり合うこと)、マネジメント(管理すること)、リライアンス(信頼に結びつくこと)の5つです。
強みだと思うものに○を付けます。数に制限はありません。そのうえで、特に自信があるものを最大2つ選んで◎にし、その能力を発揮した経歴の番号を、2つまで書き添えます。7
この組み立てが、そのまま自己PRの下書きになります。◎の2つが自己PRで伝える強みで、経歴の番号が裏付けの場面です。
事務の習慣ごとに、近い能力を当てはめた例を表にしました。左の2列は編集部の当てはめで、右の説明はシートの文言のままです。
| 事務の習慣 |
能力 |
シートの説明 |
| 決まった手順どおりに、毎月の処理を回す |
自律性 |
ルールを守り、秩序立てて仕事を進める |
| 誰も見ていない確認も、省かずに続ける |
誠実性 |
良心を持って手間を惜しまず地道に仕事をして周囲に信頼感を与える |
| 締め日から逆算して、準備の順番を決める |
企画力 |
解決策を決定し実行に向け具体的な計画を立てる |
| 期限のある仕事を、漏れなく終える |
遂行力 |
目標の達成に向け最後まで確実に成し遂げる |
| 部署ごとの都合を聞いて、日程をまとめる |
調整力 |
様々な意見をもつ利害関係者の合意形成を図る |
| 問い合わせの中身を聞き取る |
傾聴力 |
相手の意見を丁寧に聞いて伝えたいことを的確に理解する |
| 社内向けの案内を、分かる言葉で書く |
説明力 |
自分の考えや意見を相手に的確に伝える |
| 急な欠員や変更に合わせて、やり方を変える |
柔軟性 |
自分の価値観に捉われず直面する状況に適した行動をする |
表を見ると、「正確さ」という名前の能力は20の中にありません。ルールを守って秩序立てて進める自律性と、手間を惜しまない誠実性。この2つが、正確さにいちばん近い能力です。
自律性で言えば「決まりどおりに確実に回せる人」、誠実性で言えば「見えない確認も省かない人」。同じ正確さでも、伝わる姿が少し変わります。振り返りワークの●は参考情報なので、区分にこだわらず、自分の仕事ぶりに近いと思えるほうを選べばいいのです。
ジョブ・カードの20の能力と、振り返りワークで同じ区分に●が付く行動。正確さと段取りに近い名前に札作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省 マイジョブ・カード「実践的能力証明シート」
「段取り」は、得意な工程まで分けて言う
「段取りが得意です」と書きたい人は、もう一歩だけ分けてみてください。段取りのどこが得意なのかで、伝わる仕事が変わるからです。
分け方の物差しになるのが、厚生労働省の「ポータブルスキル見える化ツール」です。ポータブルスキルは、職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキルのこと。ツールは「仕事のし方」と「人との関わり方」の9つの要素で見ていて、仕事のし方の5つは、仕事の前工程から後工程のどこが得意かを表します。8
| 要素 |
厚生労働省の説明 |
事務の段取りでいえば |
| 現状の把握 |
取り組むべき課題やテーマを設定するために行う情報収集やその分析のし方 |
前の年の記録から、どこで遅れたかを調べる |
| 課題の設定 |
事業、商品、組織、仕事の進め方などの取り組むべき課題の設定のし方 |
今年は何を変えるかを決める |
| 計画の立案 |
担当業務や課題を遂行するための具体的な計画の立て方 |
締め日から逆算して、日付入りの予定表を作る |
| 課題の遂行 |
スケジュール管理や各種調整、業務を進めるうえでの障害の排除や高いプレッシャーの乗り越え方 |
催促や調整をしながら、期日までにそろえる |
| 状況への対応 |
予期せぬ状況への対応や責任の取り方 |
急な変更が入っても、順番を組み替えて間に合わせる |
予定表を作るのが得意な人と、走り出してから遅れを取り戻すのが得意な人。どちらも段取り上手ですが、自己PRで言うなら別の強みです。前者は計画の立案、後者は課題の遂行や状況への対応に近いでしょう。あなたは、どちらの段取りで頼られていますか。
ただし、このツールは、ミドルシニア層のホワイトカラー職種の人がキャリアチェンジを考える場面を想定し、キャリアコンサルタントなどの支援者が相談で使う前提で作られています。結果も、本人が思う相対的な得意と不得意をもとにしたもので、職種への適性を判定するものではありません。920代や30代なら、要素の名前を、自分の段取りを分けて言うための物差しとして借りるくらいがちょうどいいはずです。
言い切り、裏付け、つなぎの3文で書く
強みの名前と場面が決まったら、自己PRの文は3つの部品で組み立てます。
- 強みを1文で言い切る。
- 裏付けの場面を1つ書く。
- 応募先の仕事につなぐ1文を足す。
1文目では、能力の名前をそのまま使わずに、自分の仕事の言葉へ直します。「自律性があります」より「決まった手順を崩さずに、毎月の処理を期日どおりに回せます」のほうが、何をする人なのかが見えます。2文目には、いつ、何を、どれだけ、を入れます。
3文目は、応募先ごとに書き換える部分です。ハローワークの手引きも、求人票や応募先のホームページから、相手が応募者に何を求めているかを集めるよう勧めています。10
職務経歴書の記事では、出来事から書き始める順番を紹介しました。ここで強みを先に言い切るのは、欄が小さいときも、面接で話すときも、最初の1文で何の話かが伝わるからです。文体は手引きにならって「〜しました」のていねいな形にそろえます。11
NGの文も、言葉としては悪くありません。でも、どの会社のどの仕事にも当てはまってしまうので、あなたの仕事が浮かんでこないのです。
強みの種類ごとの例文
正確さ、段取り、調整、説明、急な変更への対応の5つで、書類の自己PR欄に入れる例文を作りました。5つのうち、自分にいちばん近い例文はどれでしょう。場面はすべて説明のための例で、実在の経歴ではありません。〇の部分と業務の名前を、自分のものに置き換えて使ってください。
書類に出す前に、1文目だけを声に出して読んでみてください。それだけで何が得意な人かが伝われば、言い切りは十分です。
書類と面接と社内公募で、言い方を変える
同じ強みでも、書類に書くとき、面接で話すとき、社内公募に出すときで、言い方を少しずつ変えます。
|
書類の自己PR欄 |
面接 |
社内公募 |
| 最初の1文 |
強みを言い切る |
強みを一言で |
応募する仕事と強みを結ぶ |
| 文の形 |
「〜しました」のていねいな文 |
話し言葉 |
社内の様式に合わせる |
| 裏付け |
場面を1つ、数字と一緒に |
書類と同じ場面を短く |
社内の人が確認できる事実 |
| 気をつけること |
つなぎを応募先ごとに書き換える |
書類と話の筋をそろえる |
上司への伝え方を規程で確認する |
表のうち、まず面接の列を見てください。面接は書類の自己PRを読み上げる場ではありません。ハローワークの手引きにも、面接では提出した職務経歴書の内容をもとに質問されることが多い、とあります。12だから、話す強みと場面は書類と同じにして、言い方だけを話し言葉に変えます。
ハローワーク春日部の就職支援ナビゲーターも、自己PRしたいことを「話し言葉でまとめてから」面接に臨むよう勧めています。13書類の文から3文目を外し、文を短く切るだけでも、ずいぶん話しやすくなります。続きは聞かれたら話せば足ります。
社内公募は読む人が同じ会社の人です。社外向けの書類では伏せていた部署の名前や社内の仕組みも、そのまま書いて通じます。そのぶん、今の仕事で出ている強みが、応募先の部署のどの仕事で使えるのかに字数を回せます。実践的能力証明シートのリーフレットも、明らかにした能力は「就職活動や社内の人事面接等でのアピールポイント」になると書いています。14
社内公募の書類の様式や選考の流れ、今の上司にいつ伝えるかは、会社ごとに決まりが違います。出す前に、募集の案内と社内規程を読んでおけば、あとで慌てずに済みます。
自己PRは言い切り、裏付け、つなぎの3文。書類と面接と社内公募で変えるところと、出す前の点検作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省・ハローワーク「職務経歴書の作り方」
応募の前に確認すること
強みの名前と、それが出た場面。自己PRに要るのは、最初に書いたこの2つでした。
正確さも段取りも、うまく回っているあいだは誰の目にも留まりにくい力です。だからこそ、自分で名前を付けて差し出す意味があります。一度言葉にした強みは、転職の書類だけでなく、評価面談の自己評価でも、異動の希望を伝える場でも使えます。「毎月の処理を回しています」と言うか、「決まりどおりに確実に回せます」と言うか。次の仕事を任せたくなるのは、後者ですよね。言い方が変われば、評価のされ方も少しずつ変わっていくはずです。
ジョブ・カードの様式と記入例、リーフレット、活用マニュアル、ハローワークの手引き、ポータブルスキル見える化ツールの案内は、いずれも2026年10月29日時点で公開されている版をもとにしています。