介護職員等処遇改善加算は、事務の手間が大きい加算です。区分が6つに増え、令和8年度は対象の職種も広がりました。計画書、算定、賃金改善の支払い、実績報告を、1年で順に進める必要があります。
この記事は、令和8年3月13日付けの厚生労働省の通知「介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」(老発0313第6号)を根拠に、経理と人事の担当者が押さえる点をまとめました。2026年10月21日時点の内容です。提出先や細かな取り扱いは、事業所の指定権者(都道府県や市区町村)で違うことがあるため、最後は指定権者の案内で確かめてください。
加算の全体像 令和8年度に何が変わったか
処遇改善加算は、サービスごとの月の総単位数に、区分とサービス別の加算率を掛けて算定します。令和6年6月に、それまでの3つの加算(処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算)が一本化されました。
令和8年度は、介護報酬の期中改定で次の3点が変わりました。通知は、令和9年度の介護報酬改定を待たずに行った改定だと説明しています。
- 加算の対象が、介護職員だけから介護従事者に広がりました。
- 生産性向上や協働化に取り組む事業者向けの上乗せ区分(Ⅰロ・Ⅱロ)ができました。
- 訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援などにも、新しく加算ができました(令和8年6月から)。
厚生労働省は、これらで介護職員について最大月1.9万円(6.3%)の賃上げが実現する措置としています。定期昇給0.2万円を含む数字です。
令和9年度の介護報酬改定の内容は、2026年10月21日時点で、厚生労働省の公表を確かめられていません。今後の改定は、厚生労働省の「介護職員の処遇改善」のページで確かめてください。
区分と加算率 令和8年6月以降の主なサービス
区分は、令和8年4月と5月は従来のⅠ〜Ⅳです。6月以降は、Ⅰがイとロ、Ⅱがイとロに分かれ、Ⅰイ・Ⅱイが従来のⅠ・Ⅱにあたります。ロは、イの要件に加えて、生産性向上や協働化の取り組み(令和8年度の特例要件)を満たした事業所が算定します。
6月以降の主なサービスの加算率は、通知の別紙1で次のとおりです。
| サービス |
Ⅰイ |
Ⅰロ |
Ⅱイ |
Ⅱロ |
Ⅲ |
Ⅳ |
| 訪問介護 |
27.0% |
28.7% |
24.9% |
26.6% |
20.7% |
17.0% |
| 通所介護 |
11.1% |
12.0% |
10.9% |
11.8% |
9.9% |
8.3% |
| 特定施設入居者生活介護 |
14.8% |
15.9% |
14.2% |
15.3% |
13.0% |
10.8% |
| 認知症対応型共同生活介護 |
21.0% |
22.8% |
20.2% |
22.0% |
17.9% |
14.9% |
| 介護老人福祉施設 |
16.3% |
17.6% |
15.9% |
17.2% |
13.6% |
11.3% |
| 介護老人保健施設 |
9.0% |
9.7% |
8.6% |
9.3% |
6.9% |
5.9% |
新しくできた加算の率は、訪問看護が1.8%、訪問リハビリテーションが1.5%、居宅介護支援と介護予防支援が2.1%です。この3つは、区分に分かれません。
令和8年4月と5月の率は別の表です。たとえば訪問介護は、Ⅰが24.5%、Ⅱが22.4%、Ⅲが18.2%、Ⅳが14.5%でした。ほかのサービスの率は、通知の別紙1の表1-1と表1-2〜1-5で確かめてください。通所介護のうち地域密着型通所介護など、サービスによって率が異なるものがあります。
算定要件の早見表
要件は大きく4つです。月額賃金改善要件、キャリアパス要件、職場環境等要件、令和8年度の特例要件です。区分ごとの対応を図にまとめました。Ⅰロ・Ⅱロは、それぞれⅠイ・Ⅱイの要件に加えて、令和8年度の特例要件を満たすときに算定できる区分です。
区分Ⅰイ〜Ⅳごとに満たす要件の早見表(令和8年6月以降)作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省 老発0313第6号 別紙1 表2-2
月額賃金改善要件
加算Ⅳの加算額の2分の1以上を、基本給または決まって毎月支払われる手当(基本給等)の改善に充てる要件です。Ⅳ以外の区分を算定するときは、仮にⅣを算定した場合に見込まれる加算額の2分の1以上です。
すでに満たしている事業所は、新しい取り組みは不要です。基本給等以外の手当や一時金で行っていた賃金改善を、基本給等に付け替えて満たしてもよいとされています。
キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅴ
| 要件 |
内容 |
| Ⅰ |
職位や職務内容に応じた任用の要件と賃金体系を定め、就業規則などで書面にして、全ての介護職員に周知する |
| Ⅱ |
資質向上の目標と研修の計画を、介護職員と意見を交わして作り、研修の実施か機会の確保をして、全ての介護職員に周知する |
| Ⅲ |
経験、資格、または人事評価などの基準で昇給する仕組みを設け、就業規則などで書面にして周知する |
| Ⅳ |
経験・技能のある介護職員のうち1人以上が、賃金改善後の年額で440万円以上 |
| Ⅴ |
サービスごとに決まった加算(サービス提供体制強化加算など)の届出をしている |
常時雇用する人が10人未満で、就業規則の作成義務がない事業所は、就業規則の代わりに内規などの整備と周知でよいとされています。Ⅳの440万円は、小規模事業所で職種間の賃金のバランスに配慮が必要な場合など、合理的な説明があれば例外になります。
経験・技能のある介護職員は、介護福祉士の資格があり、同じ法人での勤続が10年以上の人を基本に、他の法人での経験や技能も踏まえて、事業者が決めます。
職場環境等要件と見える化
職場環境等要件は、通知の別紙1の表4にある28項目から選びます。Ⅰ・Ⅱ系の区分は、次のとおりです。
- 「入職促進」「資質の向上やキャリアアップ」「両立支援・多様な働き方」「腰痛を含む心身の健康管理」「やりがい・働きがい」の5つの区分ごとに2以上
- 「生産性向上」から3以上(⑰または⑱は必須)
ⅢとⅣは、5つの区分ごとに1以上、生産性向上から2以上です。生産性向上推進体制加算を算定している事業所は、生産性向上の要件を満たすものとされます。
Ⅰ・Ⅱ系の区分は、取り組みの公表(見える化)も必要です。介護サービス情報公表制度で、加算の算定状況を報告し、実施した取り組みの項目と具体的な内容を「事業所の特色」欄に書きます。制度の対象でないときは、ホームページなど外から見える形で公表します。
令和8年度の特例要件と誓約
令和8年度に限り、次のどれかを満たす事業所は、キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅳと職場環境等要件を、令和9年3月末までに整える誓約で申請できます。誓約したときは、実績報告書で整えたことを報告します。
- 訪問・通所系などで、ケアプランデータ連携システムを利用している(申請時は利用の誓約でも可)
- 施設・居住系などで、生産性向上推進体制加算ⅠかⅡを算定している(申請時は算定の誓約でも可)
- 所属する法人が、社会福祉連携推進法人である
年間の事務の流れと提出期限
1年の流れは、体制届出と計画書、算定と請求、賃金改善の支払い、実績報告、資料の保存の順です。
処遇改善加算の事務 1年の流れと提出期限作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省 老発0313第6号 4
| 書類 |
期限 |
| 体制届出(居宅系サービス) |
算定を始める月の前月15日 |
| 体制届出(施設系サービス) |
算定を始める月の1日 |
| 処遇改善計画書(別紙様式2-1〜2-3) |
その事業年度で初めて算定する月の前々月の末日 |
| 実績報告書(別紙様式3-1・3-2) |
事業年度の最終の加算の支払があった月の翌々月の末日 |
| 変更届出書(別紙様式4) |
変更後の算定を始める月の前月15日(居宅系)、1日(施設系) |
令和8年度の特別な日付は、次のとおりです。
| 場面 |
日付 |
| 計画書(4月・5月分と6月以降分をあわせて) |
令和8年4月15日 |
| 計画書(令和8年6月から新しく算定する事業者) |
令和8年6月15日 |
| 実績報告書(通常の場合) |
令和9年7月31日 |
令和9年度の計画書の期限は、令和9年度の通知で確かめてください。通常の考え方では、令和9年4月から算定を始めるなら、前々月の末日は令和9年2月末日です。
複数の事業所がある法人は、計画書と実績報告書を法人単位でまとめて作れます。ただし、提出は事業所ごとの指定権者に、それぞれ行います。「提出先」の項目以外は、同じ内容で構いません。
通知は、様式の扱いも定めています。都道府県などは、原則として様式を変更しません。押印は不要です。内容を証明する資料は、提出のときに全事業者へ一律に添付を求めず、求めがあったら速やかに出せるよう保管しておく取り扱いです。保管するのは、就業規則など賃金に関する規程と、労働保険に入っていることが分かる書類です。
配分の決め方と記録の残し方
加算額以上の賃金改善が基本
事業者は、加算の算定額に相当する賃金改善を実施しなければなりません。賃金改善には、基本給、手当、賞与などが含まれ、退職手当は含みません。法定福利費等の事業主負担の増加分は、含めることができます。
賃金改善は、基本給、手当、賞与のうち、対象にする項目を決めて行います。賃金水準を下げてはいけません。安定した処遇改善のため、基本給による改善が望ましいとされています。
令和8年度に令和7年度より増えた加算額は、過去の独自の賃金改善の実績にかかわらず、新しい賃金改善で配ります。基本はベースアップ(賃金表を改めて、基本給などを一律に引き上げること)です。賃金体系が整備の途中などでベースアップだけでは難しいときは、その他の手当や一時金を組み合わせてよいとされています。
金額の見方の例(架空)
通所介護の事業所で、月の総単位数が100万単位、1単位10円とします。単価は地域で異なります。区分Ⅰイの率11.1%なら、加算は月111万円です。年で1,332万円分の賃金改善が必要で、事業主負担の増加分も含められます。
月額賃金改善要件は、Ⅳの率8.3%で計算した月83万円の2分の1、つまり月41.5万円以上を基本給等の改善に充てる計算です。
職種間の配分
職種間の配分は、事業所の判断で柔軟にしてよいとされています。経験・技能のある介護職員の処遇改善が重要である点には留意します。一部の職員や、同じ法人の一部の事業所だけに集中させるなど、実態に見合わない偏った配分はしないでください。
賃金水準を下げるとき
事業の継続のため賃金水準を下げて賃金改善を行うときは、別紙様式5の特別な事情に係る届出書を出します。経営の悪化を示す内容、引き下げの内容、改善の見込み、労使の合意の時期と方法を書きます。年度をこえて引き下げるときは、次の年度の届出でも、再度の提出が必要です。
職員への周知 キャリアパスと職場環境を見える形に
通知は、賃金改善の方法を、計画書を使うなどして職員に周知し、就業規則などの内容も周知するよう求めています。職員から賃金改善について問い合わせがあれば、書面を使うなど、分かりやすく答えます。
実務では、次の3つを掲示や配布で伝えておくと、問い合わせが減ります。
- 賃金改善の対象になる手当や賞与と、いつから変わるか
- キャリアパスの規定(昇給の仕組み、研修の計画)がどこに書いてあるか
- 職場環境等要件として実施している取り組み
就業規則の整備は、キャリアパス要件ⅠとⅢの土台です。就業規則の基本は、就業規則とは 作成の義務と記載する内容で説明しています。賃金改善を給与で支払うときの毎月の流れは、給与計算の流れをあわせて見てください。
よくある誤り
通知から、起こしやすい誤りを5つ挙げます。
通知は、算定額に相当する賃金改善が行われていない場合などに、都道府県知事等が、すでに支給された加算の一部か全部を不正受給として返還させたり、加算を取り消したりできるとしています。賃金水準を下げながら特別事情届出書を出していない場合も、同じです。
実績報告は、年度末に急いで作ると誤りが出ます。毎月の賃金改善の額を、台帳に記録しておくと確かめが楽になります。
今日からできること
- 事業所のサービスと、いま算定している区分を、通知の別紙1の表で確かめる。
- 上位の区分に移る場合は、足りない要件(キャリアパスⅢ・Ⅳ・Ⅴ、見える化など)を、早見表で数える。
- 令和8年度に誓約した要件は、令和9年3月末の期限をカレンダーに入れ、担当者を決める。
- 令和8年度の賃金改善の見込額と、毎月の支払額を、台帳で比べる。
- 令和9年度の計画書の期限を、指定権者の案内で確かめる。
- 職員に向けて、賃金改善の内容とキャリアパスの規定の場所を、掲示や配布で伝える。
この記事は一般的な情報です。個別の事業所の判断は、指定権者の窓口や、社会保険労務士などの専門家に確かめてください。