厚生労働省は2026年10月20日、化学物質の規制に関する改正案7件の意見募集を始めました。締切は11月18日(16時)で、ラベル表示・SDS交付の対象物質の見直しなどが案として示されています。この記事では、塗料・洗剤・接着剤・溶剤などを扱う会社の総務・安全衛生担当が、2024年4月に全面施行された「化学物質の自律的な管理」で会社がしていることを点検できるようにまとめ、改正案への備えを書きます。
自社に関係があるか まず確かめること
化学物質の規制というと、化学工場や塗装工場だけの話に聞こえます。しかし厚生労働省のQ&Aは、リスクアセスメントの義務は業種や事業場の規模、取り扱う量に関わらず、対象物質を取り扱うすべての事業場にかかると案内しています。製造業や建設業だけでなく、清掃業・卸売業・小売業・宿泊業・飲食店・医療や福祉の事業もあり得るとされています。
清掃用の洗剤や漂白剤はどうでしょうか。厚生労働省は、業務上日常的に使われる洗浄剤や漂白剤・かび取り剤にも規制の対象物が含まれているものがあり、これまで化学物質管理になじみのなかった事業者も対象になっていると案内しています(ビルメンテナンス・清掃業界などを対象にした2024年度のセミナーの案内)。
一方で、「主として一般消費者の生活の用に供される製品」は、SDS交付の義務から除かれ、リスクアセスメントの対象からも除かれます。ただし、業務用洗剤のように業務で使うことが想定されている製品は、スーパーやホームセンターなど一般の人が買える方法で売られていても、この除外には当たりません。
工場の安全衛生管理体制(衛生管理者・産業医・委員会)は、製造業の安全衛生管理体制で整理しています。この記事は、その土台の上に乗る化学物質の管理に絞ります。
会社がすることの早見表
厚生労働省のパンフレットによると、新しい化学物質規制は2022年5月31日の公布から段階的に始まり、2023年4月1日と2024年4月1日に施行されました。国のGHS分類で危険性・有害性が確認された物質を、ラベル表示・SDS通知・リスクアセスメントの対象に順次加えていく考え方です。会社がすることを4つに分けて表にしました。
化学物質の自律的な管理で会社がすることの早見表(4区分)作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」
| 区分 |
会社がすること |
根拠・期限 |
| 体制 |
化学物質管理者を事業場ごとに選ぶ |
規則12条の5・事由の発生から14日以内 |
| 体制 |
保護具を使わせるときは保護具着用管理責任者を選ぶ |
規則12条の6・14日以内 |
| 体制 |
雇入れ時などの教育で、化学物質の項目を省かない |
2024年4月1日から省略規定を廃止 |
| 情報 |
SDSを入手し、ラベルと一緒に確かめる |
取り扱う化学品ごとに |
| 情報 |
小分けした容器にも名称と人体に及ぼす作用を示す |
2023年4月1日から |
| 評価・措置 |
リスクアセスメントを実施し、ばく露を最小限度にする |
新規採用・作業変更・新情報のとき |
| 評価・措置 |
皮膚・眼への接触を防ぐ保護具を使わせる |
物質の有害性に応じて義務・努力義務 |
| 記録・周知 |
結果と措置を労働者に周知し、記録を残す |
リスクアセスメントは次の実施まで(最低3年) |
1 化学物質管理者と保護具着用管理責任者を選ぶ
リスクアセスメント対象物を製造し、取り扱い、または譲渡・提供する事業場は、化学物質管理者を選びます。作業現場ごとではなく、工場・店社・営業所など事業場ごとに選びます。複数人を選ぶこともできます。
化学物質管理者の職務は、パンフレットでは次のとおりです。
- ラベル・SDSなどの確認
- 化学物質に関わるリスクアセスメントの実施の管理
- リスクアセスメントの結果に基づく、ばく露を防ぐ措置の選択と実施の管理
- 自律的な管理に関わる各種記録の作成と保存
- 労働者への周知と教育
- 化学物質による労働災害が起きたときの対応
選任の要件は、化学物質の管理の業務を適切に実施できる能力のある人です。リスクアセスメント対象物の製造事業場では専門的講習の修了者を選びます。それ以外の事業場には資格の要件がなく、専門的講習などの受講が勧められています。
保護具着用管理責任者は、化学物質管理者を選んだ事業者が、リスクアセスメントの結果に基づく措置として労働者に保護具を使わせるときに選びます。有効な保護具の選択、労働者の使用状況の管理などを担当します。どちらも、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任します(労働安全衛生規則12条の5・12条の6)。
2 SDSとラベルをそろえる
リスクアセスメントの出発点は、取り扱う化学品のSDS(安全データシート)とラベルです。次の3つを会社の決まりにします。
- 取扱品の一覧を作る。 塗料・洗剤・接着剤・溶剤など、事業場で使う化学品の名前と置き場所、使う作業、SDSの入手日を一覧にします。リスクアセスメント対象物かどうかを、SDSの成分とCAS番号で確かめて印を付けます。
- 小分けした容器にも表示する。 納入された容器から別の容器に移して保管するとき、自分で作ったものを容器に入れて保管するときは、ラベルの項目のうち名称と人体に及ぼす作用を、取り扱う労働者に分かる方法で示します。2023年4月1日からの決まりです。
- 更新されたSDSを受け取る。 渡す側には、SDSの「人体に及ぼす作用」を5年以内ごとに確認し、変更があれば更新して通知先に知らせる義務があります。受け取った側は、新しい危険有害性の情報が分かったら、新しいSDSでリスクアセスメントをやり直します。
SDSの通知方法は、文書の交付のほか、電子メールや、記載内容を見られるウェブページのアドレス・二次元コードを知らせる方法も、相手の承諾を事前に得ずに使えます。メールで届いたSDSの保管場所も決めておきましょう。
3 リスクアセスメントを回す
リスクアセスメントは、厚生労働省のQ&Aでは次の5つのステップで実施します。
リスクアセスメントの5つのステップと、実施する時期・残す記録作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「化学物質対策に関するQ&A(リスクアセスメント関係)」
| ステップ |
中身 |
| 1 危険性・有害性の特定 |
SDSとラベルで確かめる |
| 2 リスクの見積り |
作業のやり方・量・時間・換気などから見積もる |
| 3 低減措置の内容の検討 |
代替物・密閉・換気・作業方法の改善・保護具から選ぶ |
| 4 低減措置の実施 |
取り扱いを始める前に実施する |
| 5 結果の周知 |
結果と措置の内容を関係する労働者に知らせる |
法律上の実施の時期は、対象物を原材料として新しく採用・変更するとき、作業の方法や手順を新しく採用・変更するとき、危険性・有害性に変化が生じたり生じるおそれがあるとき(新しい情報がSDSで提供されたときなど)です。新しい化学品は、取り扱いを始める前に評価し、措置を実施してから使い始めます。
簡単に始めたい会社には、職場のあんぜんサイトの「厚生労働省版コントロール・バンディング」があります。作業の条件を入力すると、化学物質の有害性とばく露の情報から、必要な管理対策の区分と対策シートが得られる簡易なリスクアセスメントの手法です。ただし、対策シートは参考の材料で、法令でばく露防止対策が決まっている場合は、それに基づく実施が必要と明記されています。
4 ばく露を減らす措置と保護具
リスクアセスメントの結果に基づき、労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を最小限度にします。パンフレットが挙げる方法は、代替物の使用、発散源を密閉する設備や換気装置の設置と稼働、作業方法の改善、有効な呼吸用保護具の使用です。
厚生労働大臣が定める濃度基準値設定物質は、屋内作業場で労働者がばく露される程度を、濃度基準値以下にします。基準値の確認には、推定ツール(CREATE-SIMPLEなど)や実測を組み合わせるのが効果的と、リーフレットは案内しています。
皮膚や眼への接触を防ぐ決まりもあります。皮膚・眼への刺激性や腐食性、皮膚から吸収されて健康障害を起こすおそれが明らかな物質を取り扱う業務では、保護眼鏡や不浸透性の保護衣、保護手袋などを使わせる義務があります(2024年4月1日施行)。そのおそれがないことが明らかなもの以外の物質は、努力義務です(2023年4月1日施行)。
5 記録・周知・教育を残す
担当者が最も見落としやすいのは、記録の保存です。パンフレットの保存期間を表にしました。
| 記録 |
保存期間 |
| リスクアセスメントの結果と措置の内容 |
次のリスクアセスメントまで(3年以内に再実施したときは3年) |
| ばく露低減措置の内容と、労働者の意見聴取の内容 |
3年(がん原性物質は30年) |
| リスクアセスメントに基づく健康診断の記録 |
5年(がん原性物質は30年) |
| がん原性物質を取り扱う労働者の作業の記録 |
30年 |
結果と措置の内容は、関係する労働者に周知します。衛生委員会では、ばく露を最小限度にする措置や濃度基準値以下にする措置などを話し合う決まりです。衛生委員会を置く義務のない50人未満の事業場も、規則23条の2で、関係する労働者の意見を聴く機会を設けます。雇入れ時などの教育は、化学物質の項目を省略できなくなりました。保存期間の全体は会社の書類の保存期間にまとめています。
今回の改正案で何が変わる見込みか
e-Govに掲載された7件の案の内容を、概要の資料から整理します。すべて案であり、確定したものではありません。
| 案 |
内容(案) |
予定 |
| 政令案・省令案(ラベル表示・SDS交付の対象物質) |
令和7年度までの国のGHS分類の結果を踏まえ、対象物質を見直す。省令の別表で35物質を追加し、フタル酸ジエチルを削除し、名称の変更なども行う |
公布は2027年2月、施行は2029年4月1日 |
| 裾切値の告示案 |
含有量の基準(裾切値)の表を、物の種類の区分も含めて改正する |
告示は2027年2月、適用は2029年4月1日 |
| 皮膚等障害化学物質の告示案 |
塩化鉛(II)など4物質を除き、令和8年3月31日時点の分類の結果で対象を改める |
告示は2027年2月。除外は告示の日、新しい範囲は2028年4月1日 |
| がん原性物質の告示案 |
対象の範囲の基準日を令和8年3月31日に改める |
告示は2027年2月、適用は2029年4月1日 |
| 濃度基準値の告示案・技術上の指針の案 |
フタル酸ジエチルとその濃度基準値などを削除する |
告示・公示は2027年2月、適用は告示の日 |
| 実施に支障を生じない物の告示案 |
営業秘密の成分に化学名の一部を置き換えて通知できる物の範囲を改める。経過措置は2029年3月31日まで |
告示は2027年2月、適用は告示の日 |
追加される35物質は、省令案の概要の別表1に名称とCAS番号で載っています。たとえば、顔料の別名として「ピグメントイエロー12」「同83」「同13」を持つ物質や、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、天然ゴムなどが並びます。自社の化学品に入っているかは、SDSの成分とこの別表をCAS番号で突き合わせて確かめます。別表は「物質名で判断する」ものとされ、CAS番号は参考です。
案では、新たに対象になる物質のうち施行の日に現にあるものは、追加後1年間、ラベル表示の規定を適用しない経過措置も示されています。
改正案への備え
案が確定するまでに、会社ができる備えは3つです。
- 取扱品の一覧とSDSを最新にする。 成分とCAS番号が一覧に入っていれば、別表との突き合わせが短時間で済みます。
- 意見を出すか決める。 意見は理由を付けて、e-Govの意見提出フォームなどで11月18日(必着)までに出せます。法人は法人名と所在地を書きます。
- 取引先とSDSの更新を確かめる。 対象物質が増えると、渡す側のSDS・ラベルの作成が増えます。購入先から新しいSDSが届く時期を、化学物質管理者と共有します。
今日からできること
自社が対象かどうか、どの物質が対象物かの判断に迷うときは、所轄の労働基準監督署に確かめてください。厚生労働省は事業者のための化学物質管理の無料相談窓口も設けています。社会保険労務士や労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタントにも相談できます。