新しい店を出す会社の総務や店舗開発の担当には、物件探しと同じ時期に「保健所の許可」という段取りが回ってきます。飲食店は、保健所の許可を受けないと営業できません。しかも許可は、内装が決まってからでは間に合わないことがあります。この記事では、2026年10月時点の厚生労働省の資料と東京都の案内をもとに、開業までの流れ、食品衛生責任者、変わるときの手続き、更新を整理します。
手数料や期限の日数は自治体で違います。この記事の数字は東京都の例で、確認した日を添えています。自社の店の所在地を管轄する保健所の最新の案内で、必ず確かめてください。
許可が要る営業と届出でよい営業は、どこで分かれるのか
食品を扱う営業は、食品衛生法で3つに分かれます。2021年6月1日に営業許可制度が見直され、あわせて営業の届出制度ができました(厚生労働省「営業規制に関する情報」)。
| 区分 |
内容 |
施設基準・更新 |
| 営業許可が要る営業 |
政令で定める32業種。飲食店営業が代表 |
施設基準あり・更新あり |
| 営業届出でよい営業 |
許可の業種に当たらない営業(例: 野菜果物販売、行商など) |
施設基準なし・更新なし |
| 届出が不要な営業 |
食品の輸入業、貯蔵・運搬のみなど |
なし |
飲食店営業は、食品を調理し、または設備を設けて客に飲食させる営業です(厚生労働省「営業許可業種の解説」)。以前は別の業種だった喫茶店営業も、飲食店営業に統合されました。学校や病院などの給食施設は営業ではないため、許可でなく届出の考え方です。
一方、調理の機能を持つ自動販売機による営業は、独立した業種になりました。ただし、自動洗浄などの高度な機能を持つ機種を屋根のある建物の中に置く場合は、届出の対象です。
届出の営業は、届け出る内容(氏名、施設の所在地、営業の形態、主に扱う食品、食品衛生責任者の氏名)が決まっていて、許可と違い施設基準がありません。廃業したときも届け出ます(厚生労働省「営業届出制度の創設」)。
開業までの流れ 保健所には、いつ行けばよいのか
流れは、事前相談、申請、施設の確認検査、許可書の交付、営業開始の順です。保健所に行くいちばんよい時期は、物件を契約する前です。
開業までの流れと保健所に行くタイミング(東京都の例)作成: 編集部 / もとの資料: 東京都保健医療局 食品衛生の窓 営業許可・届出の概要ほか
東京都の案内では、申請書類は施設工事の完成予定日の約10日前に保健所へ出します。申請か検査のときには、衛生管理計画も確認されます(東京都「営業許可・届出の概要」)。
事前相談で確かめること
ここからは編集部の勧めです。契約前に、次の4点を図面と一緒に聞いておくと、あとで工事をやり直さずに済みます。
- その物件の使い方(店内で調理するのか、弁当のように作って売るのか)で、必要な許可が何か
- 手洗い設備、シンク、排水、換気など、図面に足りない設備がないか
- 水道水以外(井戸水など)を使うかどうか。使う場合は水質検査成績書が要る
- 居抜きの場合は、前の営業者の許可と、設備を引き継げるか
新築と違い、居抜きの店は設備が揃って見えます。それでも、新しい営業者として申請し、基準に合うかを検査で見られます。
新規申請の書類(東京都の例)
| 書類 |
補足 |
| 営業許可申請書 |
法人は、申請書の法人番号などで存立が確認される |
| 施設の構造・設備を示す図面(2通) |
工事後の姿で書く |
| 食品衛生責任者の資格を証明するもの |
食品衛生責任者手帳など |
| 水質検査成績書 |
水道水、専用水道、簡易専用水道以外の水を使う場合 |
| 許可申請手数料 |
飲食店営業(移動・臨時を除く)は18,000円(東京都・2026年10月22日確認) |
申請は保健所の窓口のほか、厚生労働省の食品衛生申請等システムでもできます。システムを使うときは、gBizID を使う方法と使わない方法でアカウントを作ります。入力内容(何を選べばよいか)は管轄の保健所に問い合わせるよう、同省は案内しています。
施設基準は、何をどこまで見られるのか
許可を受けるには、施設が基準に合っている必要があります。基準の決まり方は二段になっています(厚生労働省「施設基準の仕組み」)。
- 国(厚生労働省令)が、参考にする基準を定める。共通の基準は食品衛生法施行規則の別表第19、業種ごとの基準は別表第20。
- 都道府県が、これを参考にして条例で基準を定める。地域の実情で、国と違う基準や、業態に応じた緩和を設けてもよい。
つまり、全国どこでも同じ骨組みですが、細かい点は自治体で違います。別表第19の共通の基準には、例えば次のものがあります。
- 従業者の手指を洗浄・消毒する装置を備えた流水式手洗い設備を、必要な個数備えること
- 排水設備は、十分な排水機能を持ち、汚水が逆流して食品を汚さないこと
- 従事者の数に応じた便所を持ち、専用の流水式手洗い設備があること
- 食品や薬剤を区分して保管できること、廃棄物の容器は清掃しやすい構造であること
飲食店営業のうち、簡易な営業(既製品の開封・加温・盛り付け、唐揚げなどの簡易な最終調理、飲料の提供など)は、施設基準が一部緩和されます(厚生労働省「営業許可業種の解説」)。テイクアウト専門の小さな店や、カフェの計画では、簡易な営業に当たるか保健所に聞いてみましょう。
食品衛生責任者は、誰がなり、何をするのか
食品衛生責任者は、店で衛生管理にあたる人です。公衆衛生に与える影響が少ない営業を除き、営業者は食品衛生責任者を定めなければなりません(東京都「食品衛生責任者」・施行規則の別表第17)。申請書にも、責任者の氏名と、資格の種類や受講した講習会を書きます(厚生労働省)。
なれる人
- 調理師、製菓衛生師、栄養士、管理栄養士、船舶料理士などの資格を持つ人は、講習会を受けずになれます(東京都の例)
- 資格がない人は、都道府県などが行う養成講習会を受けます。東京都の例では計6時間程度で、食品衛生学2.5時間、食品衛生法3時間、公衆衛生学0.5時間と確認試験です
- 1997年4月1日以降の修了証書は、全国どこでも有効です(東京都)
東京都では、東京都食品衛生協会が養成講習会を行っています。日程や申込みは、その協会のページで確かめます。
決めたあとの義務
責任者は、営業者の指示に従って衛生管理にあたり、営業者は責任者の意見を尊重します。都道府県などが行う講習会を定期的に受けて、新しい知見を学ぶことも定められています(東京都の例では、食品衛生実務講習会)。
責任者を交代したときは、変更の届出が要ります(東京都の例は、変更から10日以内)。退職や異動で責任者がいなくなる前に、後任の資格の有無を確かめておきましょう。
HACCPに沿った衛生管理は、小さな店でも必要なのか
必要です。2021年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者が、HACCPに沿った衛生管理に取り組みます(厚生労働省「HACCP」)。営業者が行うことは4つです。
- 衛生管理計画を作り、従業員に周知する
- 必要に応じて、清掃・洗浄・消毒や食品の取扱いの手順書を作る
- 実施状況を記録して保存する
- 計画や手順書の効果を定期的に振り返り、見直す
小規模な営業者(飲食店営業を含む、食品を調理する営業者や、食品等を取り扱う人が50人未満の事業場など)は、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」でよいとされています。業界団体が作る手引書を参考に、自店向けの計画を作ります(厚生労働省「小規模な営業者等について」)。
許可の申請書には、どちらの取組を実施しているかを書く欄があります。2021年6月1日の時点ですでに営業していた人は、次の更新のときに書けばよいと、同省は示しています。
変わるときの手続き 届出で済むもの、新規許可になるもの
開業したあとも、店の中身や会社の事情が変わるたびに、保健所への手続きが出てきます。東京都の案内で整理すると、次のとおりです。
変わるときの手続き 新規許可か届出かの早見表(東京都の例)作成: 編集部 / もとの資料: 東京都保健医療局 食品衛生の窓 営業許可・届出の概要、厚生労働省 営業届出制度の創設
| 変わること |
手続き |
期限(東京都の例) |
| 厨房の設備・内装の変更 |
変更届(程度により新規許可) |
変更のあった日から10日以内 |
| 食品衛生責任者の交代 |
変更届 |
10日以内 |
| 屋号・営業所の名称の変更 |
変更届 |
10日以内 |
| 法人の商号、本社所在地、代表者の変更 |
変更届 |
10日以内 |
| 営業所の移転 |
廃業届と新規許可 |
廃業は10日以内 |
| 法人の合併・分割、相続、事業の譲渡 |
地位承継届(条件により新規許可) |
遅滞なく。譲渡は事前相談 |
| 営業をやめる |
廃業届 |
10日以内 |
| 許可の期限が来る |
継続申請(更新) |
期限の約1か月前に申請 |
改装は、工事の前に相談する
営業設備に変更があるときは、図面を添えて変更届を出します。ただし東京都は、変更の程度や状況によって、新規の営業許可が必要になる場合があるため、事前に相談するよう案内しています。壁を壊す、厨房の位置を変えるなど大きな工事は、工事の前に保健所へ行きます。
営業者の名義が変わるとき
営業者が変わると、原則として新しい営業者が新規に許可を取ります。ただし、次の場合は、許可を引き継ぐ地位の承継が認められます。
- 法人の合併・分割
- 個人営業者の相続(相続人が2人以上のときは全員の同意書が要る・東京都の例)
- 営業の譲渡(条件による。調査が行われる)
食品衛生法第56条第2項が、許可営業者または届出営業者の地位を、譲渡、相続、合併、分割で承継する場合の届出の根拠です(千葉県の案内)。居抜きの買取りや、グループ内の会社間の事業の移し替えは、承継になるか新規許可になるかで、開店日が変わります。契約書を作る前に、保健所へ相談してください。
廃業したとき
営業をやめた、営業所を移転した、営業者が変わった、増改築で営業設備を大きく変えたときは、東京都の例で、その日から10日以内に廃業の届出が要ります。許可を取った店を閉めるときは、本社の総務が閉店日を保健所へ伝えるところまでを、閉店手順に入れておきます。
更新の手続き 期限の前に何をするのか
許可には有効期間があり、許可書に期限が書かれています。有効期間は自治体が定めるので、自社の許可書で期限を確かめます。
東京都の案内では、引き続き営業するときは、許可期限満了日の約1か月前に継続申請をします。書類は、現在の許可書(施設図面付き)、食品衛生責任者の資格を証明するもの、水質検査成績書(水道水以外の場合は1年以内のもの)と手数料です。東京都の南多摩保健所の案内では、期限までに職員が店で施設基準を確認し、基準に合わなければ直して再検査になります。そのため、期限ぎりぎりの申請は避けます。
手数料は、東京都の例で、飲食店営業(移動・臨時を除く)の継続申請が8,900円です(2026年10月22日確認)。更新の前に、次の点を総務で点検しておくと、手続きがすっと進みます。
テイクアウト、デリバリー、キッチンカーは別の許可が要るのか
店内で営業している店が、テイクアウトやデリバリーを始めるときは、取り扱う食品の種類や取り扱い方法によっては、新たに許可が必要になることがあります。東京都の南多摩保健所は、店の図面を用意して、事前に保健所へ相談するよう案内しています。
キッチンカーなど自動車での営業は、店舗とは別に、自動車での営業としての許可の手続きがあります。東京都の例では、新規の申請に営業の大要や、食品を仕込む場所に関する書類が要ります。営業する自治体ごとの扱いは保健所で確かめてください。
食品衛生の許可のほかに、開業で動く手続き
飲食店の開業では、保健所のほかにも窓口があります。詳細は所管の公式で確かめます。ここでは、東京都の例を一言ずつ示します。
- 消防: 建物や店舗を使い始める人は、使用開始の7日前までに消防署へ届出が要ります(東京消防庁)。収容人員などで、防火管理者の選任も要ります
- 警察: 深夜(午前0時から午前6時)に酒類を出す飲食店は、風営法に基づく届出が要ります(警視庁)
- 会社の手続き: 登記、税務署、年金事務所などは、総務の年間スケジュールの月ごとの表や、本店を移すときのオフィス移転の手続きで確かめられます
今日からできること
- 出店予定の店ごとに、所管の保健所を調べ、事前相談の予約を入れる(物件の契約の前)
- 保健所のページで、手数料、申請書類、施設基準、変更届の期限を確かめ、社内の手順書にまとめる
- 食品衛生責任者の候補を決め、資格の有無を確かめる。資格がなければ、養成講習会の日程を調べる
- 既存の店は、許可書の期限、責任者、直近の改装・変更の届出を一覧にする
- 契約書のひな形に、「許可の取得を条件とする」旨を入れられるか、法務に相談する
- 衛生管理計画と記録の様式を、手引書をもとに用意する