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賞与の支給日在籍要件、退職者に払うかは就業規則の書き方で変わる

賞与を支給日の在籍者に限る扱いは最高裁も認めていますが、モデル就業規則の条文のままだと、その定めがありません。自社の条文の読み方と、整理解雇や支給の遅れで答えが変わる場面、そのまま使える文例がそろいます。

公開 更新 約8分執筆・監修:佐々木 航人が監修しながらAIを活用して執筆
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賞与の支給日在籍要件、退職者に払うかは就業規則の書き方で変わる

この記事でわかること

  • モデル就業規則第50条は「算定対象期間に在籍」の形で、支給日の条件は書かれていない。
  • 定年で支給日の11日前に辞めた人への不支給も、規程の明記を理由に認められた。
  • 整理解雇で適用を排除した判決はあるが、最低保証つきの賞与という事情があった。
  • 支給が遅れたときは、もとの予定日に在籍した人の請求を認めた裁判例がある。
対象労務実務

賞与は支給日に在籍している人にだけ払えばいい。人事の仕事をしていると、そう教わることがあります。最高裁も認めた扱いなので間違いではありませんが、それは就業規則にそう書いてある会社の話です。厚生労働省のモデル就業規則をそのまま使っている会社の条文には、この一文がありません。

定めがあって社員に周知していれば、支給日の前に辞める人へ払わない扱いは、裁判でも認められてきました。答えが変わるのは、条文の書き方が違うとき、整理解雇のとき、支給が遅れたときです。

「支給日に在籍」と「算定対象期間に在籍」は別の定め

明るいオフィスの棚に紺色のファイルが並び、ピンクのブラウスの女性が、色の付箋が付いた1冊に手を添えて引き出している。棚の手前には数字のない丸い模様の卓上カレンダーがあり、奥では同僚が机に向かっている。
賞与の条が入ったファイルを、棚から引き出して読み直すイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)

モデル就業規則の賞与の条は、「算定対象期間に在籍した労働者に対し」「支給日に支給する」という形です。算定対象期間とは、賞与の額を計算するもとになる期間のこと。支給日に在籍しているかどうかを問う言葉は、どこにもありません。1

同じ資料の解説には、対象者を「一定の日」に在籍した人とする規定を設ければ、その日にいない人には支給しないこともできる、とあります。1つまり支給日在籍要件は、自動で付いてくるものではありません。会社が書いて初めて定めになるのです。書く日は支給日でなくてもよく、支給日の1か月前のような基準日を置く取扱いも多くみられます。2

書き方が違うと、同じ退職日でも答えが変わります。自社の条文がどの行に近いか、開いて見比べてみてください。

編集部の例として算定対象期間を4月1日から9月30日、基準日を11月1日、支給日を12月10日とし、8月31日に辞めるA、10月15日に辞めるB、11月30日に辞めるC、12月31日に辞めるDを、条文の4つの書き方に当てはめた図。「支給日に在籍する者」はA、B、Cが対象外でDが対象で、大和銀行事件で最高裁が合理性を認めた形。「11月1日に在籍する者」はAとBが対象外、CとDが対象で、基準日を置く形。「算定対象期間を継続勤務した者」はAが対象外、B、C、Dが対象で、コープこうべ事件で要件が有効とされた形。「算定対象期間に在籍した労働者」はモデル就業規則第50条の形で、Aは全部か一部か読めず、BとCは外す文言がなく、Dは対象。定めがないときは長年の慣行があるかを見る。まとめ、4行目の形のままなら支給日の前に辞めた人を外す一文は条文になく、外す扱いの裏づけになるのは別の定めか長年の慣行。
4つの条文の書き方で、退職日ごとに対象かどうかを比べる作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省、中央労働委員会、全国労働基準関係団体連合会

いちばん迷うのは4行目でしょう。算定対象期間を勤め上げて、支給日の前に辞めた人を外せるのかどうか。

手がかりになるのが日本ルセル事件です。就業規則に在籍の定めがない会社が、計算期間の後で「11月30日現在の在籍者」に払うと決めたところ、東京高裁は、期間の全部を勤めて11月4日に辞めた人との関係で、この決定を無効としました。3この会社の賞与は査定のない一律の支給で、どの会社にもそのまま当てはまるわけではありません。でも、定めがないまま後から在籍の日を決めて外すのは危ない、と考えておくのが無難です。

期間の途中で辞める人を外したいなら、「在籍した」より「継続勤務した」のほうがはっきりします。コープこうべ事件では、支給対象期間の継続勤務を要件とする給与規定が、途中で辞めた希望退職者との関係で公序良俗に反しないとされました。4

書いていない慣行が効き、書いた規程が効かないとき

条文に定めがなくても、すぐに「払う」と決まるわけではありません。最高裁は京都新聞社事件で、支給日に在籍することを要件とする慣行について、中身が不合理とはいえず、本人が知っていたかどうかにかかわらず効力があるとしました。5過去の退職者に払ったかどうかの記録を見返す理由は、ここにあります。

反対に、きれいな条文があっても、働く人が見られない状態なら使えません。中央労働委員会は、実際の事件を参考に作った解説事例で、周知されていない就業規則には効力がなく、それを理由に賞与を不支給にはできないと説明しています。6

ただ、今の条文に定めがない会社が書き足すときは、もう一段の注意が要ります。大和銀行事件の就業規則は、もとからあった慣行を書き表したものでした。7慣行のない会社が新しく足せば、働く人に不利な変更として、合理性を問われることがあります。8過半数組合か過半数代表者の意見を聴き、常時10人以上の会社なら届け出て、周知する手続きも必要です。9

退職の理由で線が変わるのは整理解雇

定めが周知されているなら、支給日の前に辞めた人を外す扱いは、かなり広く認められてきました。理由ごとの結論を1枚にすると、次のようになります。

支給日在籍の定めか慣行がある会社で、支給日より前に退職した人の扱いを、退職の理由ごとに裁判例で並べた図。本人が決める退職では、自己都合の大和銀行事件(最高裁、昭和57年)と希望退職のコープこうべ事件(神戸地裁、平成15年)で不支給を認めた。前から分かる退職では、定年の三光純薬事件(東京地裁、平成14年、6月9日に定年で支給日は6月20日)と再雇用の期間満了の京都新聞社事件(最高裁、昭和60年、慣行でも効力)で不支給を認めた。会社が決める退職では、解雇の日本テレコム事件(東京地裁、平成8年、支給日の27日前に解雇)は不支給を認め、整理解雇のリーマン・ブラザーズ証券事件(東京地裁、平成24年)は落ち度がなく時期も予測できないとして支払いを認めた。ただし最低保証つきの賞与の事件で、整理解雇なら必ず払うとまでは読めない。死亡退職は判断した裁判例を確認できず、京都新聞社事件の慣行とカネボウ合繊事件の協約では死亡を別に扱っていた。理由のほかに答えが変わる場面は4つ。規程を周知していないとその規程を理由に不支給にできない。支給が遅れたときはもとの予定日に在籍した人の請求を認めた例がある(須賀工業事件、2か月以上の遅れのニプロ医工事件)。出社していなくても有給休暇や産休の間は在籍(東京コンピューター用品事件)。退職予定者の減額は差を付けるのはよいが17%余りの額は無効とされた(ベネッセコーポレーション事件)。
退職の理由ごとの裁判例の結論と、理由のほかに答えが変わる4つの場面作成: 編集部 / 出典: 全国労働基準関係団体連合会、厚生労働省、中央労働委員会

三光純薬事件の人は6月9日に定年退職し、支給日は6月20日でした。11日の差で全額なしは、厳しく見えますよね。それでも東京地裁は、賞与はその都度決まる性質のもので、要件が給与規程に明記されていれば不測の損害を与えるものとはいえない、としました。10日割りで払えないのかと聞かれても、定めがある場合の日割りの請求は、名古屋地裁が相当でないとしています。11

線が変わるのがリーマン・ブラザーズ証券事件です。東京地裁は、任意の退職は時期を選べ、定年は時期を予測できるのに対し、整理解雇は本人に落ち度がないうえ時期も予測できないとして、支給日在籍要件を適用しませんでした。12もっとも、この人の賞与は雇用契約で最低額が保証されたもので、判決もその点を理由に挙げています。整理解雇なら必ず全額を払う、とまでは読まないほうがいいでしょう。

死亡退職について判断を示した裁判例は、労働基準判例検索には見当たりません。京都新聞社事件の慣行は「死亡退職の場合を除き」とされ、カネボウ合繊事件の労働協約も死亡を別に扱っていたので、先に決めている例があることは分かります。13

支給日がずれたら、もとの予定日が手がかり

資金繰りや労使交渉で支給が遅れ、その間に辞める人が出たらどうなるでしょう。裁判例には、もとの予定日に在籍していた人の請求を認めたものが2つあります。

須賀工業事件の東京地裁は、規程の「支給時点の在籍者」を、予定日の6月10日と12月10日に在籍する従業員と読みました。実際に払った日で線を引くと、請求権を取得した人の地位が著しく不安定になるからです。14ニプロ医工事件でも、6月の賞与が2か月以上遅れ、そのあいだに辞めた人の請求を東京高裁が認め、最高裁も是認しました。15ただ、この事件は2か月以上の遅れに許される事情がなかった場面で、数日のずれまで同じとは読めません。

モデル就業規則のただし書にある「支給時期を延期」も、対象者まで動かす言葉ではありません。同じ東京高裁は、時期を変えられる定めがあっても、当然に対象者の範囲が変わるものではないとしています。15だから支給日は「別に定める日」より、日付で書いておくと説明しやすくなります。月だけの定めなら、その月の中で日を指定しておきたいところです。

一方、支給日に在籍している退職予定者は別の話です。有給休暇や産休で出社していなくても、在籍のうちに入ります。16額を低くする定めも、差を付けること自体は認められますが、ベネッセコーポレーション事件では17%余りにする定めがその限度で無効とされ、同じ条件の人の8割までは受け取る権利があるとされました。17本人の側から見た時期の決め方は、ボーナスをもらって退職する時期は?で確認できます。

書き足すなら、日付と例外まで

定めを入れるなら、線を引く日と、線の外に置く人を、同じ条にそろえておくと迷いません。たとえば次の形です。例外の段落は法律が求めるものではなく、争いになりやすい場面を先に決めておくための案です。

定年を例外に入れるかどうかは、会社の考え方しだい。入れなくても裁判では認められてきましたが、長く勤めた人を支給日の直前に送り出すことをどう考えるか、制度を決める人と話しておくとよさそうです。

退職届を受け取ったら、この手順で判定する

冬の賞与の前に退職届が届いたら、次の順で進めると判断がぶれません。

  1. 就業規則か賃金規程で賞与の条を開き、図の4つのどの形かを見る。
  2. 定めがなければ、過去の退職者への支給記録で慣行を確認する。
  3. 規程が社員の見られる場所にあるか確認する。
  4. 退職の理由と退職日を確認する。
  5. 今回の支給予定日と、実際に払う日を並べる。
  6. 判断と根拠の条番号を記録に残す。

本人に伝えるときは、どの条のどの言葉で判断したかを添えておくと、話が早く進みます。

整理解雇や死亡退職のとき、定めも慣行も確認できないときは、結論を出す前に社会保険労務士か弁護士に相談してください。

賞与の時期の退職は、来年もまた起きるはずです。どの言葉を見てどう判断したかを1行残しておけば、次の担当にもそのまま引き継げます。

この記事は、2026年11月2日に確認した厚生労働省と中央労働委員会の資料、e-Gov法令検索の法令、全国労働基準関係団体連合会の労働基準判例検索にもとづいています。

注

  1. 厚生労働省「モデル就業規則」(令和7年12月版)の第50条(賞与)と、その解説の2 ↩ ↩2

  2. 中央労働委員会「個別労働紛争の調整事例と解説」の事例18の解説。基準日の扱いは厚生労働省「確かめよう労働条件」の裁判例「賞与不払い」にも記載 ↩

  3. 日本ルセル事件(東京高裁、昭和49年8月27日判決) ↩

  4. コープこうべ事件(神戸地裁、平成15年2月12日判決) ↩

  5. 京都新聞社事件(最高裁第一小法廷、昭和60年11月28日判決) ↩

  6. 中央労働委員会「個別労働紛争の調整事例と解説」の事例18。この事例は同委員会が実際の事件を参考に作成したもの。周知についてはフジ興産事件(最高裁第二小法廷、平成15年10月10日判決)と労働契約法第7条 ↩

  7. 大和銀行事件(最高裁第一小法廷、昭和57年10月7日判決) ↩

  8. 労働契約法第10条 ↩

  9. 労働基準法第89条第4号、第90条、第106条第1項 ↩

  10. 三光純薬事件(東京地裁、平成14年9月9日判決) ↩

  11. 梶鋳造所事件(名古屋地裁、昭和55年10月8日判決) ↩

  12. リーマン・ブラザーズ証券事件(東京地裁、平成24年4月10日判決)。支給日在籍要件そのものは原則有効としたうえで、整理解雇の事案に限り民法第90条により無効とした ↩

  13. 京都新聞社事件の控訴審(大阪高裁、昭和59年11月28日判決)、カネボウ合繊事件(山口地裁、昭和58年2月25日判決) ↩

  14. 須賀工業事件(東京地裁、平成12年2月14日判決) ↩

  15. ニプロ医工事件(東京高裁、昭和59年8月28日判決。最高裁第三小法廷、昭和60年3月12日判決で上告棄却) ↩ ↩2

  16. 東京コンピューター用品事件(東京地裁、昭和61年9月26日判決) ↩

  17. ベネッセコーポレーション事件(東京地裁、平成8年6月28日判決) ↩

出典・参考

この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆しました。執筆と監修は佐々木 航が担当し、公開した後も人が内容を確認しています。

執筆・監修

佐々木 航株式会社Game

代表取締役。工学部出身で、21歳で起業してからシステム会社の経営一筋で8期目。アプリの受託開発から始め、いまはAIを使ったシステムソリューションを手がけています。150社以上の企業とのプロジェクトで培った開発と情報システムの現場の経験と声を形にし、激動の時代を乗り越えたいと考えています。

記事の中身の責任は編集部(執筆・監修者)が負い、AIは調べものと下書きの道具として使っています。くわしくはAI の使い方に書いています。まちがいに気づいたら訂正・ご指摘からお知らせください。直したら更新日を改め、記事の最後に何を直したかを書きます。

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