今年の支給を数えたら、3月、6月、9月、12月で4回になる。それでも12月の賞与には、賞与支払届が要るかもしれません。社会保険の「年4回」は暦の1年ではなく7月1日前の1年間で数え、しかも名前ではなく同じ性質の手当ごとに数えるからです。
4回以上と判定された手当は、賞与ではなく毎月の報酬として扱います。支給の月に保険料を引かなくなるかわりに、毎月の保険料が変わる。決算手当や四半期の業績給がどちらに入るのか、自社の手当に当てはめてみませんか。
年4回以上の賞与は、毎月の報酬に入る
年4回の手当は、1年の額を12か月の報酬に分けて足すイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
健康保険法と厚生年金保険法は、3か月を超える期間ごとに受けるものを賞与と定めています。1ただ、実務で線を引くのは間隔より回数です。厚生労働省の通知によると、毎月の給与である「通常の報酬」のほかに年4回以上払うものは「賞与に係る報酬」になり、年3回以下なら賞与のまま。2間隔が3か月より短くても、3回以下なら賞与として扱います。3
賞与のままなら、払うたびに、1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に率をかけて保険料を計算します。上限は健康保険が年度の累計573万円、厚生年金が1か月150万円。4子ども・子育て支援金も、同じ額が計算のもとです。5計算の例と届出の流れは、賞与の計算と賞与支払届で確認できます。
賞与に係る報酬になると、支給の月に保険料は引きません。前年7月からその年6月までに払った額を12で割り、毎月の報酬に足して標準報酬月額を決めるからです。たとえば年90万円なら、7万5,000円を4月、5月、6月の報酬にそれぞれ足します。6
数える1年は、7月1日の前で区切る
「年」は1月からの暦年でも、4月からの年度でもありません。通知が見ているのは毎年7月1日時点の払い方で、次のどちらかに当たると年4回以上の扱いです。7
- 給与規程などに、年4回以上払うと客観的に定めている
- 7月1日前の1年間に、4回以上払った
判定の結果が入るのは、9月からの標準報酬月額を決める定時決定です。つまり翌年の8月まで、ほとんど動きません。12月に「4回目だ」と気づいたときには、今年の区分はもう決まっているのです。
つまずきやすいのは、規程を変えたあとでしょう。7月2日以降に回数を変えても、次の定時決定の標準報酬月額が使われるまでは、今までの扱いが続きます。規程を新しく作った場合も同じで、年4回と定めていても、それまでは賞与として届け出ます。8
日本年金機構の指摘事例集には、7月1日に規程を改定して年4回にした会社が載っています。改定したときから賞与支払届は要らないと思い込み、届出が漏れた例です。9月の定時決定までは賞与のまま、と覚えておくと防げます。9
名前ではなく、性質ごとに数える
回数は、名前が違っても同じ性質のものをまとめて数えます。10たとえば、夏と冬の賞与と3月の決算手当が、どれも業績に応じて払うものなら3回。反対に、四半期の業績給が賞与とは別の性質だと分かれば、賞与2回と業績給4回は別々の勘定です。決算賞与そのものの要件は、決算賞与とはで確認できます。
手当の払い方ごとに、賞与か報酬かを回数で判定する早見表作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省・日本年金機構
同じ性質かどうかを決める細かい基準は通知にありませんが、手がかりは厚生労働省のQ&Aにあります。毎月定額の分と半年ごとの分が同じ「手当A」という名前でも、規程か賃金台帳のどちらかで分けてあれば、毎月の分は通常の報酬、半年ごとの分は賞与です。どちらにも区分がなく一体で払っていると、全体が賞与に係る報酬になります。11台帳の項目を分けておくかどうかで、結論まで変わってしまうわけです。
回数に入れないものもあります。事業主のやむを得ない事情で1回分を分けて払ったときは、まとめて1回。過去数年払っておらず、その年だけと明らかな賞与も、回数には入れません。届出は賞与支払届のままです。12
同じ業績手当でも、人で区分が分かれる
基準に届かないと出ない手当は、規程に「年4回」と書いてあっても、必ず4回払うとは言えませんよね。Q&Aによると、「支給することができる」「勤務成績の上位の者のみに支給する」のように、必ず払うと想定できない定めなら、7月1日前の1年間の実績で判断します。13
これを人ごとに当てはめたのが、日本年金機構の事例集にある3か月ごとの業績手当です。同じ6万円でも、1年間に4回出た人は賞与に係る報酬で、年24万円を12で割った2万円を報酬に足します。3回の人と2回の人は賞与のまま。賃金台帳を人ごとに数えないと、区分が決まらない手当もあるのです。14
この会社は手当を払った月の報酬に入れて計算していたので、6月に出たかどうかで標準報酬月額が変わっていました。定時決定で使うのは4月から6月の報酬なので、6月の1回だけが効いてしまったのです。12で割って足す計算なら、いつ払っても同じです。
差は等級で決まり、どちらにも振れる
区分が変わると、保険料はいくら変わるのでしょうか。令和8年度の東京都の協会けんぽ、40歳未満、通勤手当を含む月の報酬30万円の人に年120万円を払う例で比べます。前の年も同じ額を払い、定時決定に入っている前提です。
年120万円を年3回と年4回で払う例の本人の保険料(東京都・40歳未満)作成: 編集部 / 出典: 協会けんぽ・厚生労働省
年3回(各40万円)なら標準報酬月額は30万円のまま。年4回(各30万円)なら月の報酬が40万円になり、等級表では41万円に上がります。本人の保険料は年3回が68万1,120円、年4回が69万8,148円で、差は1万7,028円です。
ただ、これは「年4回は高い」という話ではありません。差の元は、等級に当てはめるときの端数です。月25万円で年84万円なら、今度は年4回のほうが1万7,028円低くなります。月60万円で年240万円なら、厚生年金の上限65万円に当たるので、年4回のほうが15万3,720円低いものの、年金額を計算するもとの額も年168万円小さくなります。この上限は2027年9月に68万円となり、2029年9月の75万円まで段階的に上がる予定です。15
保険料のほかに変わるのは、将来の年金と休んだときの手当です。老齢厚生年金の報酬比例部分は標準報酬月額と標準賞与額の両方から計算するので、上限に当たらなければ、総額が同じ限り大きな差は出ません。16一方、傷病手当金と出産手当金は標準報酬月額だけで決まります。1712か月とも同じ額なら、例の人は1日あたり年3回で6,667円、年4回で9,113円。産休を控えた人には、見逃せない差でしょう。
賞与が減った年も気をつけたいところです。賞与に係る報酬の額が変わっても随時改定はしないので、次の定時決定まで毎月の保険料に反映されません。18どちらが得かは年収の水準や休む予定、賞与の波で変わり、言い切れないのです。
手当を1枚の判断表にしておく
判定は一度やっておくと、翌年の算定基礎届まで使えます。12月の支給の前に、次の順で確認してみてください。
- 給与規程と賃金台帳を開き、毎月の給与以外の支給項目を書き出す。
- 項目ごとに、支給の目的と条件を書き添える。
- 同じ性質の項目をひとまとめにする。
- 前年7月からその年6月までの回数を、規程と実績の両方で数える。
- 3回以下の項目は、支給日から5日以内の賞与支払届を予定に入れる。
- 4回以上の項目は、支給月と12分の1の額を控える。算定基礎届の備考欄の「9.その他」に書く内容です。
- 迷う項目は、規程と賃金台帳を持って年金事務所か健康保険組合に相談する。
途中で入社した人には実績がないので、同じ仕事で同じ手当を受ける人の平均額を使います。19手当の月に保険料が引かれない理由を社員に聞かれたら、次の文で答えられます。
この判断表があれば、担当が変わっても引き継げます。来期に手当を増やす話が出たときも、「4回目にすると、毎月の保険料が変わります」と先に言える。回数の数え方は、賞与を決める場で発言するための材料にもなるはずです。
この記事は、2026年11月2日に確認した厚生労働省の通知、日本年金機構と協会けんぽの資料、e-Gov法令検索の条文にもとづいています。保険料の例は架空の計算で、実際の額は加入先や等級で変わります。個別の判断は、年金事務所や健康保険組合、社会保険労務士に相談してください。