厚生労働省は2026年10月21日、「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」を公表しました(厚生労働省の結果のページ)。1人平均賃金の改定率は4.4%で、前年と同じ率でした。この記事では、昇給やベースアップを決める人事・経理の担当者に向けて、2026年の結果と10年の推移、規模別・産業別の違いを整理し、自社の改定率の計算と検討の段取り、給与計算と社会保険への影響までつなげます。
賃金引上げ等の実態に関する調査とは 対象・時期・言葉の意味
この調査は、民間企業の賃金や賞与の改定額・改定率・改定の方法などを明らかにするために、厚生労働省が毎年行っています。2026年の調査の概要は次のとおりです(調査の概要と用語の定義による)。
| 項目 |
2026年の調査 |
| 調査の対象 |
常用労働者100人以上を雇用する会社組織の民営企業(15の産業) |
| 調べた時期 |
2026年7月20日〜8月10日 |
| 調べ方 |
調査票を郵送し、郵送かオンラインで回答 |
| 回答 |
3,668社に調査し、1,862社が有効回答(有効回答率50.8%) |
| 公表 |
2026年10月21日 |
| 賃金の範囲 |
所定内賃金(諸手当を含み、時間外・休日・深夜の割増手当や慶弔手当などを含まない)の1か月1人あたり |
| 平均の取り方 |
常用労働者数による加重平均 |
2026年の数字は、9〜12月に予定している改定も含みます。回答した時点で、まだ改定の額を決めていない会社は、改定額と改定率の集計から外れています。
調査の言葉は、会社の中で使う言葉と少し違います。ここで押さえておくと、自社の数字と比べるときのずれを防げます。
「賃金の改定」には定期昇給が含まれます。ニュースでよく聞く「賃上げ率」は定昇込みの数字が多く、この調査の改定率も定昇込みです。ベアだけの率ではありません。
2026年の結果 改定額13,926円・改定率4.4%
2026年に賃金の改定を実施した(予定を含む)企業を見ると、「1人平均賃金を引き上げた・引き上げる」は92.0%(前年91.5%)でした。「引き下げた・引き下げる」は0.4%(同1.1%)、「変わらなかった・変わらない」は0.4%(同1.0%)、「実施しない」は2.1%、「未定」は5.1%です。
額も決まっている会社と実施しない会社を合わせた1人平均賃金の改定は、次のとおりです。
| 区分 |
改定額(2026年) |
改定額(2025年) |
改定率(2026年) |
改定率(2025年) |
| 全体 |
13,926円 |
13,601円 |
4.4% |
4.4% |
| うち引き上げた企業 |
14,257円 |
13,914円 |
4.5% |
4.5% |
| うち引き下げた企業 |
△5,028円 |
△8,909円 |
△1.8% |
△3.5% |
| 労働組合あり |
14,757円 |
15,229円 |
4.5% |
4.8% |
| 労働組合なし |
13,033円 |
11,980円 |
4.2% |
4.0% |
出典: 厚生労働省「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」第2表。
全体の数字には、賃金の改定を実施しない会社も入っています。引き上げた会社だけで見ると、改定額は14,257円です。
労働組合がある会社は全体の23.3%(前年22.0%)で、その中で賃上げ要求の交渉があった会社は84.7%(同78.3%)でした。組合ありの率は4.8%から4.5%に下がり、組合なしは4.0%から4.2%に上がっています。差は0.8ポイントから0.3ポイントに縮みました。
改定の時期も確かめておきます。賃金の改定を実施した(予定を含む)会社のうち、1〜8月のみに改定した会社が79.0%、9〜12月のみが7.7%、1〜8月に改定したうえで9〜12月にも予定している会社が6.0%です(第1表)。ここでの「時期」は、改定後の賃金が給与計算に適用される時期をいいます。
賃上げ率の推移 10年の改定額と改定率
調査の累年表(付表2)から、2016年〜2026年の1人平均賃金の改定額と改定率を並べます。
1人平均賃金の改定額と改定率の推移(2016〜2026年)作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「賃金引上げ等の実態に関する調査」令和8年の概況
| 調査年 |
改定額 |
改定率 |
| 2026年(令和8年) |
13,926円 |
4.4% |
| 2025年(令和7年) |
13,601円 |
4.4% |
| 2024年(令和6年) |
11,961円 |
4.1% |
| 2023年(令和5年) |
9,437円 |
3.2% |
| 2022年(令和4年) |
5,534円 |
1.9% |
| 2021年(令和3年) |
4,694円 |
1.6% |
| 2020年(令和2年) |
4,940円 |
1.7% |
| 2019年(令和元年) |
5,592円 |
2.0% |
| 2018年(平成30年) |
5,675円 |
2.0% |
| 2017年(平成29年) |
5,627円 |
2.0% |
| 2016年(平成28年) |
5,176円 |
1.9% |
出典: 厚生労働省「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」付表2。令和5〜7年の各年の概況の第2表と同じ値です。
2019年までは5,000円台・2%前後でした。2020年と2021年に減ったあと、2022年から増え続け、2025年と2026年は率が4.4%で並びました。額は2022年の5,534円から、4年で2.5倍ほどになっています(編集部が計算)。
同じ累年表をさかのぼると、率が最も高いのは1990年(平成2年)の6.0%(14,199円)で、額が最も大きいのは1991年(平成3年)の14,394円(5.9%)です。2026年の13,926円は、1982年以降の表で3番目の大きさです。最も低いのは2003年(平成15年)の3,064円・1.0%でした。
企業規模別の改定額と改定率
2026年は、規模が大きいほど改定率が高くなっています。2022年からの推移も同じ調査の各年の概況で確かめました。
企業規模別の改定額・改定率(2026年と2022〜2025年)作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「賃金引上げ等の実態に関する調査」令和8年の概況
| 規模 |
改定額 |
改定率 |
前年の率 |
引き上げた企業の割合 |
| 5,000人以上 |
16,680円 |
4.8% |
5.1% |
97.7% |
| 1,000〜4,999人 |
15,402円 |
4.7% |
5.0% |
94.6% |
| 300〜999人 |
12,912円 |
4.2% |
4.0% |
93.4% |
| 100〜299人 |
11,279円 |
3.9% |
3.6% |
91.3% |
| 全体 |
13,926円 |
4.4% |
4.4% |
92.0% |
出典: 概況の第1表・第2表。
| 規模(改定率) |
2022年 |
2023年 |
2024年 |
2025年 |
2026年 |
| 5,000人以上 |
2.0% |
4.0% |
4.8% |
5.1% |
4.8% |
| 1,000〜4,999人 |
1.8% |
3.1% |
4.1% |
5.0% |
4.7% |
| 300〜999人 |
2.0% |
3.2% |
3.8% |
4.0% |
4.2% |
| 100〜299人 |
1.9% |
2.9% |
3.7% |
3.6% |
3.9% |
| 全体 |
1.9% |
3.2% |
4.1% |
4.4% |
4.4% |
出典: 令和5年・令和6年・令和7年・令和8年の概況の第2表。
5,000人以上と1,000〜4,999人は前年より下がり、300〜999人と100〜299人は上がりました。規模による差は、5,000人以上と100〜299人で0.9ポイントです(2025年は1.5ポイント)。差は縮んでいますが、100〜299人の会社が賃金を引き上げた割合は91.3%で、5,000人以上の97.7%より6.4ポイント低くなっています。
産業別の改定額と改定率
産業別に見ると、2026年の改定率は建設業の5.5%が最も高く、運輸業、郵便業の3.0%が最も低くなりました。
産業別の改定額・改定率(2026年と2025年)作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「賃金引上げ等の実態に関する調査」令和8年の概況
| 産業 |
改定額(2026年) |
改定率(2026年) |
改定額(2025年) |
改定率(2025年) |
引き上げた企業の割合(2026年) |
| 建設業 |
20,599円 |
5.5% |
20,724円 |
5.9% |
85.1% |
| 学術研究、専門・技術サービス業 |
19,492円 |
5.4% |
14,911円 |
3.8% |
91.8% |
| 電気・ガス・熱供給・水道業 |
17,634円 |
5.0% |
19,611円 |
5.3% |
100.0% |
| 製造業 |
15,134円 |
4.7% |
15,952円 |
5.2% |
95.8% |
| 情報通信業 |
17,884円 |
4.4% |
14,096円 |
3.9% |
96.6% |
| 卸売業、小売業 |
13,173円 |
4.3% |
12,183円 |
4.2% |
96.1% |
| 教育、学習支援業 |
12,674円 |
4.3% |
9,300円 |
3.2% |
84.7% |
| サービス業(他に分類されないもの) |
11,927円 |
4.3% |
8,621円 |
3.4% |
90.3% |
| 宿泊業、飲食サービス業 |
11,940円 |
4.2% |
10,177円 |
3.6% |
87.8% |
| 鉱業、採石業、砂利採取業 |
11,589円 |
4.1% |
18,020円 |
6.1% |
87.1% |
| 不動産業、物品賃貸業 |
12,461円 |
4.0% |
14,368円 |
4.5% |
87.8% |
| 金融業、保険業 |
12,769円 |
3.8% |
17,567円 |
4.1% |
88.8% |
| 生活関連サービス業、娯楽業 |
9,210円 |
3.5% |
7,744円 |
2.9% |
85.9% |
| 医療、福祉 |
8,540円 |
3.3% |
5,589円 |
2.3% |
95.8% |
| 運輸業、郵便業 |
8,815円 |
3.0% |
10,545円 |
3.6% |
81.1% |
出典: 概況の第1表・第2表。並びは2026年の改定率の高い順です。
15の産業のうち、前年より率が上がったのは8産業、下がったのは7産業です。学術研究、専門・技術サービス業(3.8%から5.4%)、教育、学習支援業(3.2%から4.3%)、医療、福祉(2.3%から3.3%)が大きく上がり、鉱業、採石業、砂利採取業(6.1%から4.1%)が最も下がりました(差は編集部が計算)。
読むときは、産業ごとの回答数が少ないことにも気を付けます。鉱業、採石業、砂利採取業のような小さな産業は、数社の違いで数字が大きく動きます。建設業と運輸業、郵便業は、改定を「未定」とした会社がそれぞれ14.9%・14.8%あり、引き上げた割合が低く出ている面があります(第1表)。
定期昇給とベースアップ 区別がある会社の内訳
自社の数字を比べるとき、見落とされやすいのが「定昇とベアを区別しているか」です。調査では、賃金の改定を実施した(予定を含む)会社と実施しない会社のうち、定期昇給制度がある会社を対象に、ベアの実施を聞いています。
| 項目(2026年) |
割合 |
2025年 |
| 定昇制度がある |
84.2% |
81.2% |
| 定期昇給を行った・行う |
81.2% |
76.8% |
| 定昇制度がない |
13.9% |
17.7% |
| (定昇制度がある会社の中)ベアを行った・行う |
57.9% |
57.8% |
| (同)ベアを行わなかった・行わない |
15.4% |
15.1% |
| (同)定昇とベアの区別なし |
24.7% |
25.5% |
出典: 概況の第3表〜第5表。
定昇とベアの区別がある会社(73.3%)だけで見ると、ベアを行った・行う会社は79.0%、行わなかった・行わない会社は21.0%です。区別がない会社が24.7%あります。
労働組合の有無で分かれる点も押さえます。ベアを行った・行う会社は、組合ありで83.9%、組合なしで48.8%でした。規模別では、5,000人以上が79.3%、100〜299人が52.7%です。産業別では、電気・ガス・熱供給・水道業の94.1%と運輸業、郵便業の85.3%が高く、教育、学習支援業は31.6%でした。
定期昇給の内容は、「自動昇給」が28.4%、「その他(業績評価など)」が73.0%です(複数回答)。年齢や勤続年数で自動的に上がる制度より、評価で決める制度のほうが多くなっています。
賃金の改定で重視した要素 業績が46.0%
改定の額が決まっている会社に、賃金の改定を決めるとき最も重視した要素を聞いています。2026年は、「企業の業績」が46.0%(前年41.7%)で最も多く、次いで「労働力の確保・定着」12.1%(同17.0%)、「雇用の維持」9.2%(同11.9%)でした。
| 重視した要素 |
最も重視(2026年) |
最も重視(2025年) |
複数回答(2026年) |
複数回答(2025年) |
| 企業の業績 |
46.0% |
41.7% |
63.2% |
63.8% |
| 労働力の確保・定着 |
12.1% |
17.0% |
49.8% |
49.8% |
| 雇用の維持 |
9.2% |
11.9% |
37.8% |
43.7% |
| 親会社・関連会社の改定の動向 |
6.0% |
5.9% |
12.9% |
13.1% |
| 世間相場 |
5.5% |
7.7% |
33.0% |
38.1% |
| 最低賃金 |
5.3% |
3.2% |
17.9% |
11.9% |
| 消費者物価の動向 |
3.9% |
3.3% |
18.5% |
19.2% |
| 労使関係の安定 |
1.5% |
0.6% |
8.5% |
8.0% |
| 前年度の改定実績 |
0.7% |
1.2% |
7.3% |
9.1% |
出典: 概況の第7表・付表3。複数回答は、最も重視したものを1つ、ほかに重視したものを2つまで選ぶ(最大3つ)方式の割合です。そのほかの選択肢(行政からの支援、専門家からの助言など)は省いています。
最低賃金は、最も重視した割合が3.2%から5.3%に、複数回答の割合が11.9%から17.9%に増えました。なお、「最低賃金」「行政からの支援」「専門家からの助言」は、令和7年(2025年)調査から選択肢に加わっています。令和6年以前の調査には、この項目がありません。
規模別に見ると、すべての規模で「企業の業績」が最も多くなっています。5,000人以上は36.5%で、「労働力の確保・定着」(19.9%)と「世間相場」(13.7%)も目立ちます。100〜299人は業績が49.3%です。
自社の改定率の計算 編集部の計算例
調査の改定率を自社で再現するときは、人数の重みを付けて、総額で計算します。部署や等級ごとの率を、人数に関係なく平均するのはよくある間違いです。
次の100人の会社(編集部が作った例)で考えます。改定の対象は、役員を除く常用の社員です。
| 区分 |
人数 |
改定前の月額(1人) |
改定後の月額(1人) |
差額(1人) |
区分ごとの率 |
| 一般社員 |
60人 |
280,000円 |
292,000円 |
12,000円 |
4.3% |
| 主任・係長 |
30人 |
350,000円 |
364,000円 |
14,000円 |
4.0% |
| 管理職 |
10人 |
500,000円 |
510,000円 |
10,000円 |
2.0% |
- 改定前の総額: 280,000円×60人+350,000円×30人+500,000円×10人=32,300,000円(1人平均323,000円)
- 改定後の総額: 292,000円×60人+364,000円×30人+510,000円×10人=33,540,000円(1人平均335,400円)
- 差額の総額: 1,240,000円。1人平均の改定額は12,400円
- 改定率: 12,400円÷323,000円=3.84%、つまり約3.8%
区分ごとの率(4.3%・4.0%・2.0%)を単純に平均すると3.4%になり、実際の3.8%とずれます。人数の多い一般社員の影響が大きいためです。
定昇とベアを分けるときは、次のように出します。全員の賃金表を5,000円ずつ上げた(ベア)とすると、5,000円×100人=500,000円で、率は500,000÷32,300,000=1.5%です。残りの740,000円(2.3%)が、定期昇給や昇格などの分になります。月額の差額が1,240,000円なので、月給だけで見た年間の増加は14,880,000円(1,240,000円×12か月)です。賞与や残業代、社会保険料の事業主負担は、ここに入っていません。
この例を調査と並べると、100〜299人の区分(3.9%・11,279円)に近い値です。比べるときは、次の条件をそろえます。
- 所定内賃金で計算する(時間外・休日・深夜の割増手当、慶弔手当などは除く)
- 常用労働者(期間を定めずに雇われている人)を対象にする。役員、日雇や有期の人は除く
- 調査の全体の数字には、改定を実施しない会社も0円として入っている(自社の昇給を決めるときの比較には、引き上げた会社の数字も見る)
- 「改定前」は、改定前の月額の平均にする(昇給の前後で同じ人数で見る)
改定の検討の段取り 時期・材料・社員への知らせ方
調査では、改定の時期は1〜8月が中心(79.0%)です。4月の新年度に合わせる会社が多いと考えて、逆算の例を次の表にしました(編集部の例。会社の決算期や賃金規程の定めで読み替えてください)。
| 時期の目安(4月改定の例) |
やること |
担当 |
| 前年の10〜11月 |
材料を集める(この調査、最低賃金、物価、賃金の統計、自社の業績見込み) |
人事・経理 |
| 12〜1月 |
昇給の総額と配分の案をつくる。定昇とベアの区別を決める |
人事・経理 |
| 1〜2月 |
経営の決定。労働組合がある会社は交渉に合わせる |
経営・人事 |
| 2〜3月 |
賃金表・賃金規程の改定の要否を確かめる。社員一人ひとりの新しい額を出す |
人事 |
| 3月 |
社員に知らせる。給与計算のマスタを更新する準備 |
人事・経理 |
| 4月〜 |
新しい額で給与を計算する。社会保険の随時改定の対象者を確かめる |
経理・労務 |
材料は4つに分ける
調査で重視された要素を見ると、業績(46.0%)のほか、人の確保(12.1%)、世間相場(5.5%)、最低賃金(5.3%)、物価(3.9%)が上がっています。自社の検討でも、次の材料を集めておくと説明しやすくなります。
賞与にも波及します。この調査では、夏の賞与を支給した(額が決まっている)会社は88.5%(前年88.4%)でした。基本給を上げると賞与の計算にも響く会社は、賞与(ボーナス)の平均支給額 夏と冬の推移と業種別・規模別も見ながら、年間の総額で考えます。
決めたら社員に知らせる
額が決まったら、社員一人ひとりに新しい額と適用の時期を知らせます。会社の賃金規程や、昇給の通知の様式に決まりがあれば、それにしたがいます。賃金表や手当の額を規程に書いている場合は、規程の改定が要るかも確かめてください。
給与計算と社会保険の随時改定への影響
昇給の額を決めたあと、経理・労務で確かめることが2つあります。給与計算の設定と、社会保険の標準報酬月額です。
給与計算では、新しい基本給と手当の額をマスタに入れ、適用の開始月を合わせます。期中の改定、さかのぼって払う差額は、賃金規程どおりに計算します。さかのぼって昇給し、差額をあとで払う場合は、随時改定の月の考え方が変わります(下の枠)。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)では、昇給で報酬が大きく変わったとき、日本年金機構の案内にある「随時改定(月額変更届)」の対象かどうかを確かめます。
「変動月」は、変動した固定的賃金で報酬を支払った月です。たとえば4月に支払う給与から変わったなら、4〜6月の3か月の平均を従前の標準報酬月額と比べ、7月から改定されます。さかのぼって昇給して差額を支払ったときは、差額を支払った月が変動月になり、差額を除いた3か月の平均で比べます。月額変更届は「速やかに」提出します。
編集部の計算例で、等級の差を見ます。厚生年金保険の令和8年度の保険料額表では、報酬月額290,000円以上310,000円未満が標準報酬月額300,000円(19等級)、310,000円以上330,000円未満が320,000円(20等級)、330,000円以上350,000円未満が340,000円(21等級)です。健康保険の等級や額は、加入先(協会けんぽ・健康保険組合)の表で確かめます。
| 例 |
従前 |
昇給後(3か月の平均) |
等級 |
随時改定 |
| 昇給12,000円 |
月額300,000円(19等級) |
312,000円 |
20等級(1等級差) |
対象にならない |
| 昇給35,000円 |
月額300,000円(19等級) |
335,000円 |
21等級(2等級差) |
対象になる |
上の例は、支払基礎日数の要件を満たし、残業代などの非固定的賃金が変わらない場合です。日本年金機構の案内では、固定的賃金が上がっても、残業手当などの非固定的賃金が減って、3か月の平均で出した標準報酬月額が2等級以上下がった場合は、対象にならないとしています。
4月に昇給した人が、4〜6月の報酬で7月に改定される人と、そうならない人で分かれます。7月に改定の月額変更届を出す人は、7月10日までの算定基礎届(定時決定・毎年7月1日現在の全被保険者が対象)を出さなくてよい人にあたります(定時決定の案内による)。8月・9月に随時改定が予定される人は、算定基礎届の扱いが別にあります。手続きの様式と詳しい要件は、日本年金機構のページで確かめてください。
昇給が数千円のベアだけなら、1〜2等級の差で、対象にならない人が多くなります。大きく上がる人(昇格・職務の変更など)や、手当の新設で報酬が増える人を、先に一覧にしておくと、4月に慌てずにすみます。
今日からできること
- 自社の数字を出す。昇給の案を、人数の重みを付けた総額で計算し、改定額(円)と改定率(%)を出します。定昇とベアも分けます。
- 同じ条件の数字と並べる。この調査の規模別・産業別の表から、自社の区分の行を選びます(100人未満の会社は目安として使います)。
- 材料を4つ集める。自社の業績と人件費、最低賃金、物価、同業の水準です。会議の資料には、調査名・年・公表日・対象を書き添えます。
- 昇給の影響を一覧にする。昇給額の大きい人、手当を変える人を拾い、随時改定の2等級差に当たりそうな人を分けておきます。
- 社員への知らせと、給与計算の設定の日を、カレンダーに入れる。
この記事の数字は、2026年10月21日に厚生労働省と日本年金機構の資料で確かめたものです。2026年の数字には9〜12月の予定が含まれ、調査の結果は今後の実際の改定と違う場合があります。随時改定などの手続きの要件は変わることがあるので、届け出の前に日本年金機構の最新の案内を確かめてください。