安否確認が遅れる会社の多くは、手段が足りないのではなく、送る基準と、返事のない人を誰が追うかが決まっていません。この2つと、連絡網の代わりの人を紙1枚に書いておくだけで、次の地震や台風のときの動きが違ってきます。
夜8時に震度5強の揺れがあった場面を考えます。総務の担当者が社員全員にメールを送ったものの、30分たっても返事は半分ほどです。残りの人に電話してよいのか、家族に連絡してよいのか、どこまで追えばよいのかが決まっていないと、手が止まります。
連絡は会社から送る手段を主にして、伝言板を予備に置く
使える手段は、大きく6つです。
- 電話
- メールと社内チャット
- 安否確認の専用の仕組み(一斉に送って、返信を自動で数えてくれるサービス)
- 災害用伝言ダイヤル(171)
- 災害用伝言板(web171)
- 携帯各社の災害用伝言板
次の表では、171・web171・携帯各社の行が各社の案内にもとづくもので、ほかの行は編集部が整理したものです。
| 手段 |
災害時のつながり |
返事の集計 |
費用の型 |
| 電話 |
安否を気遣う通話が増えると、つながりにくくなる |
一人ずつ話すので遅い |
通話料 |
| メール・社内チャット |
通信網が生きていれば届く。停電や電池切れには弱い |
人数が多いと手作業になる |
契約済みなら追加なし |
| 専用の仕組み |
メールやアプリの通知で届く。条件はメールやチャットと同じ |
返信を自動で集計できる |
人数に応じた月額が多い |
| 171 |
被災地への通話が増えたとき、NTTが開設する |
番号ごとに聞く。集計は手作業 |
NTT東西の電話からは通話料無料 |
| web171 |
開設時に、ブラウザーから使える |
番号ごとに読む。通知先を登録すれば届く |
サービス利用料は無料。接続費用は別 |
| 携帯各社の伝言板 |
震度6弱以上などの大規模災害で開設する |
番号ごとに確認する |
通信料無料と案内する会社が多い |
意外なのは、返事を数える列です。171やweb171、携帯の伝言板は、本人が自分の番号の欄に書き込み、探す人が番号を入れて読むものです。社員100人の様子を知るには、100人分の番号を一つずつ引くことになります。だから主な道は、会社から送って返信を集められる手段にして、伝言板は、それが使えないときの予備にします。
予備の道は、ふだんの準備しだいで頼りになるかどうかが決まります。171は、171に電話して、録音なら1、再生なら2を押し、市外局番から番号を入れます。録音は1件30秒までです。NTT東日本の案内は、録音する番号を家族や友人の間であらかじめ決めておくようすすめています。会社なら、各自の携帯番号で録音すると決めれば足ります。
web171には、もう一つ使い道があります。前もって通知先を登録しておくと、本人が伝言を書き込んだとき、メールなら10件まで、音声なら1件に内容が届きます。社員が通知先に総務の共有メールを入れておけば、番号を引いて回らなくても、書き込みが総務に届きます。案内によると、登録しないと通知は届かず、通信の具合で遅れることもあります。家族の分と合わせて10件までなので、総務の宛先は1つにします。
送る基準は、携帯の伝言板が開く震度より低く決める
ドコモ、au、ソフトバンクの案内では、携帯の伝言板が開くのは震度6弱以上の地震などの大きな災害のときです。171とweb171も、被災地への電話が増えてつながりにくくなってから、NTTが始めるものです。震度5強の揺れでは、伝言板がまだ開いていないことがあります。会社の連絡は伝言板を待たずに送れるよう、基準を低めに決めておきます。
基準の例を挙げます。会社ごとに変えてかまいません。
- 本社か拠点のある市区町村で、震度5弱以上を観測したとき
- 気象庁が、本社・拠点・社員の多い地域に特別警報を出したとき
- 鉄道の長い運転見合わせや広い範囲の停電で、出社や帰宅に支障が出ているとき
ガイドラインも、初動をあらかじめ決めた参集基準に沿って動く形にしています。基準を満たしたら、送るかどうかを相談せずに送ると決めておくのがコツです。迷う時間が、遅れのもとになるからです。送る人は、総務の責任者と、夜や休みの日に代わる2人にします。
聞くことは、本人の無事とけが、家族、出社できるか、今いる場所の5つだけにします。ガイドラインが従業員に求めるのも、自分と家族の安否の報告です。揺れた直後の人は片手でスマートフォンを持っているので、数字で答えられる4問にまとめます。
出社してもらう連絡や、自宅で待ってもらう連絡は、別の文面で送ります。書き方は社内のお知らせ文の書き方にまとめています。
連絡網は、10人前後の班に分けて代わりの人まで書く
総務の1人が社員全員に連絡して返事を待つやり方は、200人を超えると回らなくなります。班長が10人ほどの班員を受け持ち、部署長が班長を、総務が部署長をまとめる三段にすれば、1人が追う人数は10人ほどで済みます。
安否確認の連絡網。総務から班員まで三段に分け、代わりの人を置く作成: 編集部 / 出典: 内閣府 事業継続ガイドライン
連絡網の紙には、班長だけでなく代わりの人を2人まで書きます。班長が出張や休みで留守のときも、自分が被災したときも、班が置き去りにならないようにするためです。
本社と拠点のあいだは、拠点長が拠点の分を集めて、本社の総務へまとめて報告する形にします。揺れは場所ごとに違うので、送る基準も拠点ごとに見ます。本社と連絡がつかないときは、拠点長が自分で決めて動いてよい、と紙に書いておきます。
連絡先は個人の情報なので、扱いを先に決めます。安否の確認と、緊急のときの連絡にしか使わないと本人に伝え、同意をもらって集めます。連絡網を自宅にも置く人には、載せる情報を絞って渡します。ガイドラインにも、キーパーソンに自宅用の資料を配るなら、個人情報を絞る工夫が要るという趣旨の注記があります。連絡先は、異動や入退社のたびに直し、それ以外でも半年に一度は、みんなに見てもらいます。
返事のない人を追う段取りは、時間で区切って手段を変える
返事がない理由の多くは、通知に気づいていないか、電池が切れているだけだと考えて段取りを組みます。だから、最初の追い方は軽くし、時間がたつほど手段を重くします。次の時間割は編集部の目安なので、会社の大きさや拠点の数に合わせて変えてください。
返事のない人を追う時間割。30分後の再送から、3時間後の責任者への報告まで作成: 編集部 / 出典: 内閣府 事業継続ガイドライン・NTT東日本
動き方は、次の順です。
- 発信から30分たったら、同じ手段でもう一度送り、同時に班長が返事のない班員へ電話します。
- 1時間たったら、チャットやSMSなど別の手段に変え、171とweb171に本人の携帯番号で伝言がないかを見ます。
- 2時間たったら、登録してある家族などの緊急連絡先に連絡します。
- 3時間たっても連絡がつかない人は、名前と最後に分かった居場所を一覧にして、責任者に渡します。
一覧を渡したあとは、その人の住む地域の被害を見て、経営が決めます。
家族の連絡先は、集めるとき、安否が分からないと連絡することを本人に伝えて同意を得ます。電話を受けた家族が戸惑わないよう、会社の名前を先に伝える一文も決めておきます。
出張中の人は、出張の予定表で居場所が分かるようにしておきます。送る基準は出張先の震度でも見ます。返信は、本人が自分ですることになります。休暇中の人にも、安否確認は送ります。返信はお願いしても出社は求めない、と案内に書いておけば混乱しません。夜は、2時間後の連絡を翌朝にずらすなど、家族へ電話してよい時間帯も先に決めておきます。
訓練は年に一度を最低線にして、返事の割合を測る
内閣府の事業継続ガイドラインは、教育や訓練を決まった間隔で、たとえば年に一度するよう求めています。体制を変えたとき、人事異動や採用で人が大きく入れ替わったとき、計画を見直したときにもするとしています。ねらいは、安否確認のように頭では知っていることを実際に体験して身につけることと、手順や計画の弱点を洗い出すことです。
この資料から言えるのは、年に一度が最低線だということです。年2回と決めた資料は見当たりませんでした。ここからは編集部の考えです。異動の多い会社は、4月の異動のすぐあとにもう1回すると、連絡先の間違いを早く直せます。
抜き打ちか予告かも、資料には書かれていません。1回目は予告して、班長と代わりの人に連絡網の紙を見てもらいます。2回目からは、時刻を知らせずに、夜や休日にも送ってみると、実際に近い数字が出ます。抜き打ちにするなら、先に経営者の了解をもらいます。
ガイドラインは、訓練がきいているかを見るために、目標をはっきり決め、どこまでできたかをどう見るかを前もって決めておくよう求めています。安否確認なら、返事の割合と、かかった時間を毎回書き残すのがいちばん手軽です。
訓練の1年の流れの例と、毎回記録する項目作成: 編集部 / 出典: 内閣府 事業継続ガイドライン・NTT東日本
171とweb171は、練習できる日をNTTが設けています。NTT東日本の案内では、体験の日は次の4つです。
- 毎月1日と15日(0時から24時)
- 正月三が日(1月1日0時から3日24時)
- 防災週間(8月30日9時から9月5日17時)
- 防災とボランティア週間(1月15日9時から21日17時)
体験のあいだも、録音は30秒、1つの番号につき20件まで預かってもらえます。訓練を1日か15日に合わせると、各自が携帯から171に録音し、班長が再生する練習ができて、予備の道もいっしょに試せます。次の体験日は、11月1日です。
BCPの中では、安否確認は初動のいちばん最初の仕事
事業継続計画(BCP)では、安否確認は初動のはじめに入っています。ガイドラインは、対策本部の初動に、従業員などの安否を確認して結果をまとめることを挙げています。注記には、事業継続のために動ける人を知る意味でも大切だとあります。
結果が出そろわないと、出社を頼める人も、代わりに仕事を受け持てる人も、分からないままです。
安否確認のあとに決めるのは、水や食べ物の備えと、建物の中での動きです。備蓄の量は防災備蓄品のリスト、避難訓練や消防計画は防火管理者の選任と消防計画で整理しました。避難訓練の日に重ねれば、安否確認の訓練のために予定を増やさずに済みます。
夜8時の揺れで、30分後に返事が半分だったのか、7割だったのか。その数字を一度測っておくと、連絡網のどこを直せばよいかが見えてきます。最初の訓練は、完璧でなくてかまいません。
この記事の内容は、2026年10月26日にNTT東日本、ドコモ、au、ソフトバンクの案内と、内閣府の事業継続ガイドライン(令和5年3月)を見て確認しました。伝言ダイヤルや伝言板が開く条件は、災害のたびにNTTや各社が発表するので、そのときの案内に従ってください。