労働基準監督署の調査では、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿をそろえて見せるよう求められるのが一般的です。出せない、書いていない、嘘を書いたとなれば、罰金の対象にもなります。この3つを「法定三帳簿」と呼ぶ会社は多いのですが、法律に「三帳簿」という言葉はありません。出勤簿に至っては、条文にも名前が出てきません。
ここでは、それぞれの書類に何を書くのか、パートやアルバイトも作るのか、勤怠システムや給与ソフトの出力で足りるのかを、条文と厚生労働省の資料で確かめた範囲で説明します。2026年10月時点の内容です。
三帳簿は、根拠も様式も保存の数え方も別々です
まず3つの違いを表にします。同じ「帳簿」でも、法律に書いてある度合いが違います。
| 書類 |
根拠 |
様式 |
作る対象 |
| 労働者名簿 |
労働基準法第107条・施行規則第53条 |
様式第19号 |
日々雇い入れられる人を除く労働者 |
| 賃金台帳 |
労働基準法第108条・施行規則第54条・第55条 |
様式第20号(常用)・第21号(日々雇い入れ) |
日々雇い入れられる人を含む労働者 |
| 出勤簿(労働時間の記録) |
労働基準法第109条の「重要な書類」・施行規則第54条・厚生労働省のガイドライン |
決まりなし |
労働時間を把握する対象の労働者 |
労働者名簿と賃金台帳には、条文と様式があります。出勤簿は、名前も様式も決まっていません。ただし賃金台帳には労働時間数を書く欄があり、その元になる記録が要ります。ガイドラインも、始業・終業時刻を確認して記録するよう求めています。つまり、名前は決まっていなくても、実際には作る必要がある書類です。
様式は、必要な事項の最少限度を示したものです。横書き、縦書きなど、異なる様式を使ってもかまいません(施行規則第59条の2)。記載事項がそろっていれば、自社の形に作り替えてよいことになります。
架空のパート1人分で見る、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の項目の並び作成: 編集部 / 出典: 労働基準法・同施行規則(e-Gov法令検索)
労働者名簿は、入社した人ごとに9つの項目を書きます
労働者名簿は、各事業場ごとに、労働者それぞれについて作ります(労働基準法第107条)。日々雇い入れられる人は除かれます。書く項目は次の9つです。
| 項目 |
補足 |
| 氏名・生年月日・履歴 |
法第107条に書かれた項目 |
| 性別・住所 |
施行規則第53条 |
| 従事する業務の種類 |
常時30人未満の事業では書かなくてよい |
| 雇入れの年月日 |
|
| 退職の年月日とその事由 |
解雇の場合は、その理由も書く |
| 死亡の年月日とその原因 |
該当したときに書く |
履歴は、学歴や職歴の要約を書くのが一般的です。履歴書の写しを綴じる会社もありますが、名簿の項目をすべて満たすわけではありません。
名簿は、作って終わりではありません。記入した事項に変更があれば、遅滞なく訂正します(第107条第2項)。引っ越しや改姓の届出があったときに、名簿も直す流れを決めておくと、住所の古いまま退職を迎える事態を防げます。
常時30人未満の事業では、業務の種類を書かなくてよいと施行規則にあります。常時30人以上の事業場は、パートの業務の種類も書きます。事務、販売、調理補助のように、大まかな区分で記入するのが一般的です。
賃金台帳は、賃金を払うたびに、数字の根拠をそろえます
賃金台帳は、賃金計算の基礎になる事項と賃金の額を、賃金を支払うたびに遅滞なく記入します(第108条)。労働者名簿より、更新の頻度が高い書類です。施行規則第54条の項目は次の8つです。
| 項目 |
補足 |
| 氏名・性別 |
|
| 賃金計算期間 |
日々雇い入れられる人(1か月を超えて使う人を除く)は不要 |
| 労働日数 |
|
| 労働時間数 |
管理監督者などは不要 |
| 時間外・休日・深夜の労働時間数 |
管理監督者などは不要 |
| 基本給・手当など賃金の種類ごとの額 |
現物で払う賃金は評価総額を書く |
| 賃金の一部を控除した場合の額 |
控除の項目ごとに書く |
賃金台帳のつまずきやすい点は、労働時間数です。給与ソフトが勤怠システムとつながっていない運用では、労働時間数の欄が空のままになりやすい点に注意してください。金額だけの台帳では、項目が足りません。
労働時間数などを書かなくてよいのは、労働基準法第41条に当たる人(管理監督者など。労働条件の決定や労務管理で、経営者と一体の立場にある人)と、第41条の2の高度プロフェッショナル制度で働く人です。ただし、厚生労働省のガイドラインは、対象外の人にも、健康を守る観点から適正な労働時間管理の責務があるとしています。台帳には書かなくても、時間の把握はやめないでください。
様式は、常時使用される人(1か月を超えて続けて使う日々雇い入れの人を含む)が様式第20号、1か月を超えず日々雇い入れる人が様式第21号です。名簿と賃金台帳は、あわせて1つの書類にしてもかまいません(施行規則第55条の2)。
出勤簿は、始業・終業時刻を日ごとに記録する書類です
出勤簿は、条文の名前ではありません。作る根拠は、次の3つです。
- 賃金台帳に労働日数と労働時間数を書く義務(施行規則第54条)
- 厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
- 保存の対象になる、第109条の「その他労働関係に関する重要な書類」
ガイドラインは、使用者に、労働日ごとの始業・終業時刻を確認して記録するよう求めています。確認の方法は、原則として次のどちらかです。
- 使用者が自分で現認して、適正に記録する
- タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録などの客観的な記録を基礎にして確認し、記録する
どうしても自己申告にする場合は、労働者と管理者への十分な説明、実態調査と補正、申告を妨げる措置の禁止などが必要です。入退場の記録やパソコンの使用時間と、自己申告の時間に著しい差があるときは、実態を調べて補正します。出勤簿にハンコを押すだけでは、この2つの方法のどちらにも当たりません。
出勤簿に書く項目は、法律に決まりがありません。一般的には、日付、曜日、始業時刻、終業時刻、休憩、労働時間、時間外・休日・深夜の時間、年次有給休暇や欠勤の区分を、日ごとに並べます。賃金台帳の労働日数や時間外の時間は、この月の合計から取ります。
パート・アルバイト・契約社員も、同じ三帳簿に入ります
労働基準法の「労働者」は、職業の種類を問わず、事業に使用されて賃金を支払われる人です(第9条)。正社員かどうか、週に何時間働くかは、条件に入っていません。パート、アルバイト、契約社員も、名簿と賃金台帳を作る対象です。出勤簿も、労働時間を把握する対象の労働者として、ほかの人と同じ記録をとります。
例外は、日々雇い入れられる人です。名簿は作らなくてよい対象に入り、賃金台帳は作る対象になります。様式第21号を使います。
もう1つ、数え方の単位があります。三帳簿は、会社ごとではなく事業場ごとに作ります。本社、支店、工場のように、事業場が複数あるときは、それぞれに備えます。パソコンで本社がまとめて作り、保存してもかまいません。ただし、閲覧や提出を求められたとき、事業場ごとにデータを取り出せる形にしておくことが必要です(長野労働局の資料)。
勤怠システムや給与ソフトの出力で足りるかは、5つの問いで確かめます
結論から言うと、電子で作って保存することは認められています。厚生労働省の省令は、書面で保存することが決まっている書類を、電磁的記録で保存してよいとしています。条件は、必要に応じて、直ちに明瞭で整然とした形で画面に表示し、書面を作成できるようにすることです。
長野労働局の資料も、パソコンで作成して保存してかまわないと説明しています。様式第19号や第20号と同じ形でなくても、記載事項がそろっていれば足ります。
足りるかどうかは、ソフトの種類ではなく、出力した中身で決まります。次の図の5つの問いで確かめてください。
システムの出力が三帳簿として足りるかを確かめる5つの問い作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省ガイドライン・e-文書法省令の概要
| 問い |
はいの目安 |
いいえのときの直し方 |
| 記載事項がそろっているか |
名簿9項目・台帳8項目・出勤簿の始業終業時刻が出る |
項目の追加、勤怠システムとの連携 |
| 事業場ごとに取り出せるか |
事業場を指定して出力できる |
出力の条件を設定する |
| すぐに画面へ出し、印刷できるか |
操作1つで表示し、印刷できる |
出力の手順書を作る |
| 保存期間のあいだ残るか |
退職者のデータも消えない |
解約前の出力、保存先の変更 |
| 出勤簿の元の記録は客観的か |
打刻やパソコンの使用時間が元になる |
自己申告の措置、打刻の見直し |
ソフトを乗り換えるときも注意があります。乗り換え前のデータは、保存期間が終わっていなければ、乗り換え後も出せるようにしておきます。出力した帳票をPDFなどで保存しておく方法もあります。
保存は5年、当分の間は3年。数え始める日が書類ごとに違います
労働者名簿、賃金台帳、雇入れや解雇、賃金などの重要な書類は、5年間保存します(第109条)。附則第143条で、当分の間は3年とされています。2026年10月時点では、保存の義務は3年間です。保存期間の全体の表は、会社の書類の保存期間 一覧表と整理のしかたにまとめています。
数え始める日(起算日)は、施行規則第56条が、書類ごとに決めています。
| 書類 |
起算日 |
| 労働者名簿 |
労働者の死亡、退職、解雇の日 |
| 賃金台帳 |
最後の記入をした日(賃金の支払期日が後なら、その日) |
| 出勤簿などの重要な書類 |
その完結の日(賃金の支払期日が後なら、その日) |
厚生労働省のQ&Aに例があります。賃金計算期間が当月1日から末日、支払期日が翌月10日の会社では、タイムカードなどの保存期間は、翌月10日から数えます。退職した人の分は、名簿が退職の日から、台帳が最後の記入の日(支払期日が後ならその日)から、当分の間は3年間です。
作らない・残さない・嘘を書くと、30万円以下の罰金です
名簿と賃金台帳の作成、保存の義務に違反した人は、30万円以下の罰金です(第120条第1号)。賃金台帳に必要な事項を記入しなかったときや、わざと虚偽の労働時間数を記入したときも、ガイドラインが第120条の罰金の対象になると説明しています。
労働基準監督官の臨検を拒んだり、帳簿書類を提出しなかったり、虚偽の記載をした帳簿書類を出したりした場合も、同じ30万円以下の罰金です(第120条第4号)。
自社の三帳簿を点検する段取り
最初に、現在の運用を3つの書類で並べて見ます。一度に全部を直す必要はありません。
- 勤怠システムと給与ソフトから、パートを含む1人分の直近の月を、三帳簿の形で出力する。
- 出力した用紙に、図の5つの問いを当てはめて、欠けている項目に印をつける。
- 欠けている項目を、ソフトの設定、台帳の追加の欄、出勤簿の様式の見直しで補う。
- 入社手続きに、名簿の作成を入れる。入社手続きの全体は、入社手続きのチェックリストで整理しています。
- 毎月の給与計算の流れに、賃金台帳の確認を入れる。月次の流れは、給与計算の毎月の流れで整理しています。
法律の判断に迷うときは、社会保険労務士や所轄の労働基準監督署に相談してください。