社員から休職の申し出や診断書を受け取ると、人事は規程の確認、傷病手当金の手伝い、休職中の連絡、復職の判断を、順に進めることになります。この記事は2026年10月時点の制度で、厚生労働省のモデル就業規則、協会けんぽ、日本年金機構、労働者健康安全機構などの公式の資料で確かめた範囲を、受け取った日から復職の判断まで順に整理します。
休職から復職までの流れ(規程の確認・発令・休職中・復職の判断)作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「モデル就業規則」「職場復帰支援の手引き」
休職は法律ではなく就業規則で決まります
休職とは、業務外の病気などで長く働けないときに、社員の身分を保ったまま一定の期間、働く義務を免除する扱いです。厚生労働省のモデル就業規則の解説は、休職の定義・休職期間の制限・復職などについて、労働基準法に定めはないとしています。つまり、何か月休めるか、給与が出るか、戻れなかったらどうなるかは、会社の就業規則で決まります。
診断書を受け取ったら、まず自社の規程を開いて、次の項目を確かめます。
| 確かめる項目 |
見るところ |
モデル就業規則の考え方 |
| 対象 |
休職にできる事由と、欠勤が何か月続いたら休職にするか |
第9条第1項。業務外の傷病による欠勤が一定の月数を超え、なお療養が必要なときなど |
| 期間 |
休職できる最長の期間 |
第9条第1項に年数を入れる欄がある(数字は各社で決める) |
| 勤続年数による差 |
勤続年数で期間を分けているか |
モデルは一律の欄で、分けるかどうかは各社の規程次第 |
| 賃金 |
無給か、一部を支給するか |
第43条第3項。原則は支給しない。有給にするなら具体的に定める |
| 勤続年数への算入 |
退職金などの勤続に数えるか |
第55条第2項。会社都合を除き、休職期間は算入しない |
| 期間満了のとき |
退職か、延長か |
第9条第3項・第52条第1項第3号。満了してもなお治らず就業が難しければ退職 |
| 通算 |
復職後に同じ病気で再び休むとき、前の期間と合わせるか |
手引きは、最長期間とクーリング期間を定めるなら就業規則に書くよう勧める |
モデルの欄は空欄のところが多く、数字そのものは会社が決めます。自社の規程に書かれていない項目(通算の扱いなど)があれば、その場で判断せず、規程を見直す課題として控えておきます。
診断書を受け取ってから休職の発令まで
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成21年3月改訂)は、病気休業の開始時に、主治医が作った診断書を社員から管理監督者などに出してもらうとしています。診断書には、休業が必要なことに加え、必要な療養期間の見込みを書いてもらうのが望ましいとされています。人事の動きは、次の順になります。
- 診断書を受け取る。管理監督者から人事労務と産業保健スタッフ(産業医など)へ、提出があったことを伝える。
- 本人と面談する。療養に専念してよいことを伝え、休職中の事務手続きと復職までの流れを説明する。
- 規程に照らして、休職にできるかを確かめ、期間と休職の開始日を決める。
- 休職を発令する。辞令または通知書で、期間・開始日と終了日・賃金・保険料の扱い・連絡の窓口を書いて渡す。
- 業務を引き継ぐ。担当の仕事を洗い出し、誰が受け持つかを決める。
引き継ぎは、病名を伝えなくてもできます。同僚や取引先には、「しばらく休む」「担当は○○に代わる」とだけ伝え、病気の中身は話さないのが基本です。
健康情報は必要な範囲だけ扱う
診断書の病名などの情報は、個人情報の中でも特に慎重に扱う情報です。手引きは、健康情報の内容を職場復帰支援と安全配慮義務の履行に必要な最小限にとどめるよう求めています。主治医や家族から情報をもらうときは、利用目的と必要性を伝えて本人の承諾を得ること、できるだけ本人から提出してもらうことが望ましいとされています。心の健康問題を示す病名は誤解や偏見を招きやすいため、とくに慎重に扱います。
厚生労働省の指針(労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針・令和4年3月改正)は、心身の状態の情報の取扱い規程を事業場ごとに定め、労使で共有するよう求めています。労働安全衛生法第104条も、事業者は健康の確保に必要な範囲で情報を集め、その目的の範囲で使うよう定めています。
| 場面 |
気をつけること |
| 診断書の保管 |
人事の中の決まった担当者だけが見られるようにする |
| 上司や同僚への共有 |
休職の事実と、業務に必要な事柄だけ。病名は伝えない |
| 主治医への問い合わせ |
事前に目的を説明し、本人の同意を得る(同意は個別に、はっきり) |
傷病手当金の申請を手伝う
休職中は給与が出ないことが多く、本人の収入を支えるのが健康保険の傷病手当金です。手引きも、休業中の経済的な不安を減らすため、傷病手当金など公的な支援の手続きを事業者が案内し、場合によっては利用を支援することが望ましいとしています。
支給の要件・額・期間
協会けんぽの案内では、次の4つの要件をすべて満たしたときに支給されます。
| 要件 |
内容 |
| 業務外の病気やけが |
労災保険の対象になる業務上・通勤中のものは対象外 |
| 仕事に就けない |
療養担当者の意見などを基に、仕事の内容を考えて判断される |
| 連続3日の待期のあと、4日目以降 |
待期の3日には有給休暇や土日祝日の公休日も含まれ、給与の有無は関係ない |
| 休んだ期間に給与が出ない |
給与が出ても傷病手当金より少なければ、その差額が出る |
支給額は、1日あたり、支給開始日の以前12か月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2です(健康保険法第99条第2項)。協会けんぽの例では、標準報酬月額が16万円の月が6か月と18万円の月が6か月なら、平均は17万円で、30分の1は約5,670円、その3分の2の3,780円が1日あたりになります。支給開始日以前の期間が12か月に満たないときは、法律にただし書きがあり、いくつかの額のうち少ないほうを基にします。
支給期間は、同じ病気やけがについて、支給を始めた日から通算して1年6か月です(同条第4項)。復職後に同じ病気で再び休んだ場合も、その範囲内であれば、改めて3日の待期はいりません(厚生労働省のこころの耳)。任意継続被保険者の期間中に起きた病気やけがには、傷病手当金は出ません。
会社が書く欄と申請の流れ
傷病手当金の要件・額・期間と、会社が書く事業主記入用作成: 編集部 / もとの資料: 協会けんぽ「傷病手当金」・健康保険法
申請書は4ページで、本人が書く1・2ページ、事業主が書く3ページ、医師などの療養担当者が書く4ページに分かれています(令和8年6月版)。会社が書く欄は、次のとおりです。
- 事業所の所在地・名称・事業主の氏名・電話番号
- 申請期間のうち、出勤した日に○を付ける(一部だけ働いた日も含む)
- 出勤していない日に報酬を支給した日があれば、その日と金額(有給休暇の賃金、出勤にかかわらず払う通勤手当・扶養手当・住宅手当、食事や住居の現物支給など)
残業手当のように出勤した日の報酬や、見舞金のような一時的な支給は書きません。証明の日付は、申請期間が終わったあとの日付にします。出勤簿や賃金台帳の写しは付けません。申請期間が3か月を超えるときは申請書を分けます。
流れは、本人が1・2ページを書く、会社が3ページに証明する、本人が医師に4ページを書いてもらう、協会けんぽの支部へ出す、の順です。協会けんぽは電子申請をすすめています。審査の結果、支払えるときは受付から10営業日以内に支払うとされています。健康保険組合に入っている会社は、加入先の様式と提出先を確かめてください。
保険給付を受ける権利は、請求できる時から2年で時効になります(健康保険法第193条)。「あとでまとめて」とせず、休んだ期間ごとに出すよう本人に伝えます。
休職中の社会保険料と住民税
給与が出ない休職でも、健康保険料と厚生年金保険料はかかります。協会けんぽは、保険料は被保険者である期間の各月について納め、事業主と被保険者が折半すると案内しています。保険料の免除は、日本年金機構の案内では産前産後休業と育児休業等の期間に設けられた制度で、病気の休職は含まれません。
事業主は、被保険者負担分も合わせて納める義務があり、本人の分は賃金から差し引くことができます。ただし、休職で給与が出なければ差し引けません。日本年金機構は、本人が事業主に現金で払う場合の端数の計算方法も示しています。
払い方の決まりは、公式の資料では見つかりませんでした。一般的には、次のような方法があります。
| 方法 |
一般的な進め方 |
| 毎月振り込んでもらう |
月ごとに金額を知らせ、会社の口座に振り込んでもらう |
| 復職後にまとめて精算する |
休職中は会社が立て替え、復職後の給与から分けて差し引く |
後者は、本人が復職できなかったときに回収できなくなる心配があります。どちらにするかは、休職の通知書や規程にあらかじめ書き、本人の同意を得ておきます。
住民税は市区町村が扱います。給与から差し引く方法(特別徴収)のままでは、給与がない月に引けません。切り替え方は市区町村に確かめてください。
休職中の連絡は、頻度と方法を先に決める
手引きは、休業中の連絡のタイミングを、あらかじめ職場復帰支援のプログラムを作るときに考えておくことが望ましいとしています。たとえば診断書や傷病手当金の申請書を出すタイミングに合わせると、本人の負担が軽くなることがあるとされています。連絡の目的は、孤独や復職できるかという不安を和らげ、必要な情報を渡すことです。
頻度と方法は規程に決まりがないため、会社で決めます。一般的な例は、次のとおりです。
| 項目 |
例 |
| 頻度 |
月に1回程度。傷病手当金の申請書のやり取りに合わせる |
| 方法 |
本人が望む手段(メールや郵送など)を最初に確かめる |
| 窓口 |
人事の担当者1人。上司からの連絡は本人の希望を聞いてから |
| 内容 |
申請書類、制度の案内、復職までの流れ。業務の指示や催促はしない |
| 診断書 |
療養の見込み期間に合わせて、新しい診断書をいつ出すかを決めておく |
復職の判断は、主治医と産業医の意見を合わせて行う
手引きは、職場復帰支援を5つのステップで示しています。
職場復帰支援の5つのステップと、試し出勤・プランの内容作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「職場復帰支援の手引き」
| ステップ |
内容 |
| 第1 |
病気休業の開始と休業中のケア(診断書の提出・連絡・不安を減らす対応) |
| 第2 |
主治医による職場復帰可能の判断(本人の意思表示と診断書の提出・産業医等による精査) |
| 第3 |
職場復帰の可否の判断と、職場復帰支援プランの作成 |
| 第4 |
最終的な職場復帰の決定(状態の最終確認・意見書・事業者による決定と通知) |
| 第5 |
職場復帰後のフォローアップ |
主治医の診断書だけでは決めない
復職を希望する連絡があったら、本人に、主治医が復職可能と判断した診断書を出してもらいます。手引きは、診断書に就業上の配慮の意見も書いてもらうのが望ましいとしています。
ただし、主治医の診断書は病状の回復の程度で判断されることが多く、職場の仕事をこなせる水準まで戻ったかとは限らず、本人や家族の希望が含まれている場合もあります。そこで産業医等が、主治医の判断と職場で必要な業務の内容を照らして精査し、意見を述べることが大切だとされています。主治医に会社の業務の内容や勤務制度を前もって伝え、就業が可能な水準で意見書を書いてもらうよう頼むことも勧められています。
職場復帰支援プランと試し出勤
第3ステップでは、本人の意思、主治医の意見、本人の状態、職場の状況を集めて、復職できるかを判断し、プランを作ります。プランには、復職日、上司による就業上の配慮(業務量の変更や残業の制限、時間短縮など)、人事労務上の対応(配置転換の要否・勤務制度の変更)、産業医の意見、フォローアップの方法などを入れます。復職は、原則として元の職場へ戻す(まずは元の職場への復帰)とされています。
試し出勤制度がある会社は、模擬出勤・通勤訓練・試し出勤のいずれかを使えます。試し出勤は、復職前に、元の職場などに試験的に一定期間続けて出勤する方法です。導入には、この間の処遇、災害があったときの対応、人事労務上の位置づけを、労使であらかじめ決めておく必要があります。使用者が作業を指示したり、作業が業務にあたったりすると、労働基準法などが適用されることがあります。長引かせないことも求められています。
産業医がいない会社は
産業医の選任が義務づけられているのは政令で定める規模の事業場で、それ以外の事業場は、医師などに健康管理を行わせるよう努めることとされています(労働安全衛生法第13条・第13条の2)。手引きも、産業医がいない50人未満の事業場では、人事労務のスタッフや上司が、主治医と連携しながら、地域産業保健センターなどの外部の機関を活用して検討を進めるよう求めています。
地域産業保健センター(地さんぽ)は、労働者健康安全機構が運営し、労働者数50人未満の事業者と働く人を対象に、保健指導などを無料で行っています。メンタルヘルスの相談もでき、利用には事前の申し込みが必要です。相談できる内容や回数は地域のセンターで違うため、申し込み先に確かめてください。
休職期間が終わっても復職できないとき
モデル就業規則は、休職期間が満了してもなお病気が治らず就業が難しいときは、満了をもって退職とする定めの例を示しています。ただし、この扱いが有効かどうかを、モデルや手引きは一律には示していません。手引きは、病気を理由に休職した社員の復職の可否については、さまざまな判例があること、職種を限定した契約かどうかで判断が分かれるものがあることを挙げ、トラブルを避けるために法律の専門家に相談するよう求めています。
退職扱いにする場合のポイントを、確かめた範囲でまとめます。
- 退職の定めが、就業規則に書かれ、周知されているか(手引きも、期間満了後の契約解除は、あらかじめ就業規則に定めて周知しておくことが望ましいとしている)
- 解雇として扱う場合は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でなければ無効になる(労働契約法第16条)
- 業務上の病気やけがで休んでいる間とその後30日間は、原則として解雇できない(労働基準法第19条)。労災の疑いがあるときは、とくに慎重に
退職後も、健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あり、退職日に傷病手当金を受けているか、受けられる状態であれば、傷病手当金を続けて受けられる場合があります(協会けんぽ)。退職の話をするときは、この点も伝えます。
今日からできること
- 自社の就業規則の休職の条文を開き、対象・期間・賃金・期間満了・通算を、前の表で確かめる。書かれていない項目に印を付ける。
- 休職通知書のひな形を作る(例の6項目)。
- 傷病手当金の申請書(協会けんぽ・または加入先の健康保険組合)の様式を印刷し、事業主の欄の書き方を確かめる。
- 保険料の本人負担分の払い方を決め、通知書に入れる。
- 診断書を見てよい人を決め、保管の場所も決める。
- 産業医がいない会社は、近くの地域産業保健センターの連絡先を調べておく。
- 復職の流れ(5つのステップ)を1枚にまとめ、上司に共有する。
休職は、起きてから規程を探すと間に合いません。規程を確かめ、書類のひな形を作っておくと、診断書を受け取った日から落ち着いて進められます。給与計算との関係は給与計算の毎月の流れ、保険料の仕組みは社会保険の基礎も参考になります。