管理職にならず、専門を深めて働き続けたい。この希望は話し方しだいで、「やる気がない」ではなく「ここで貢献したい」という相談に変えられます。
ただ、話す前に2つ調べておきましょう。自分の会社に専門職のコースがあるかと、役職に就かないときに給与がどう伸びるかです。
上を目指す道は、部下を持つ道だけとは限りません。
「今の仕事を続けたい」は、珍しくない
担当分野の知識を、ホワイトボードの前で後輩に説明するイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
「管理職になりたくない」と口にするのは、少し勇気がいりますよね。でも、そう考えている人は少なくありません。
厚生労働省の「平成30年版 労働経済の分析」によると、役職に就いていない人と係長・主任相当の人のうち、「管理職に昇進したいとは思わない」と答えた人は61.1%でした。1もとの調査は2018年で、男女を合わせた数字です。
理由でいちばん多いのは「責任が重くなる」の71.3%。「業務量が増え、長時間労働になる」が65.8%で続きます。「現在の職務内容で働き続けたい」も57.7%あり、「部下を管理・指導できる自信がない」と同じ割合でした。
あなたの理由は、どれに近いでしょう。
責任や働く時間が気がかりなら、引き受けたあとの姿を聞くだけで、迷いがほどけることもあります。打診を受けて迷っているときは、昇進の打診で迷うとき、管理職を引き受ける前に上司に聞く5つのことが役に立つはずです。一方で「今の仕事を深めたい」という気持ちが強いなら、打診を待たなくていいのです。自分から道を探しに行けます。
専門職のコースには、3つの形がある
コースがない会社のほうが、実は多数派です。労働政策研究・研修機構が2025年に従業員300人以上の企業へ行った調査で、複線型人事制度など「複数のキャリアパスを選択できる制度」を導入していない企業は67.4%でした。2「導入済みで十分に実施・利用している」と答えた企業は、全体の4.4%にとどまります。
制度があるかと、実際に動いているかは、別の話なのです。
形の違いは、内閣官房と経済産業省、厚生労働省がまとめた「ジョブ型人事指針」に載る20社の例から読み取れます。3どれも大きな会社の例ですが、自分の会社がどれに近いかを考える手がかりにはなるでしょう。
まず、別のコースを設ける形。オリンパスは管理職にマネジメント職とエキスパート職の2コースを置き、部下を持たなくても、高い専門性で大きな責任を担う人を管理職相当で処遇します。リコーやテルモも、部下を持つ管理職と専門の管理職で等級を分ける形です。
次に、同じ等級で扱う形。三菱マテリアルはコースを分けず、部下がいない社員も役割と責任の大きさに応じて、組織の長と同様の等級に格付けます。
そして、定めがない形。この場合、希望は上司や人事との個別の相談になります。
専門を深めた先が、きちんと上に伸びている会社もあります。オムロンでは部下を持つ道とスペシャリストの道などを社員が行き来でき、スペシャリストの最上位には報酬の上限を定めていません。
専門職のコースの3つの形と、形ごとに見るところと聞くこと作成: 編集部 / 出典: 内閣官房ほか「ジョブ型人事指針」ほか
ここで気をつけたいのが、指針の例の多くで、専門職が「管理職の中」に置かれていることです。「管理職にならない」というより、「部下を持たない管理職」に近いのです。
すると、残業代の扱いが変わるかもしれません。残業代が出ない管理監督者に当たるかについて、厚生労働省のパンフレットは「肩書や職位ではなく、その労働者の立場や権限を踏まえて実態から判断する必要があります」としています。4部下がいないから残業代が必ず出る、とも、専門職だから出ない、とも言えません。
コースに入れば安泰、というわけでもなさそうです。オリンパスの例では、担当する仕事の責任しだいで等級が上下し、管理職から非管理職に変わることもあります。
社内の制度を確認する手順
自分の会社の形は、次の順に調べると見えてきます。上司に話す前に済ませておくと、質問がぐっと具体的になります。
- 社内ポータルで「等級」「キャリアパス」「専門職」「スペシャリスト」を検索する。
- 就業規則と賃金規程を開き、等級と役職、手当の条を読む。
- 部下を持たずに上の等級にいる人が、社内にいるかを探す。
- 分からない点を、人事か上司に聞く。
就業規則は、会社が働く人に周知しなければならないものです。5遠慮なく開いて大丈夫。手順の3番は制度が動いているかを見るためのもので、実際に進んだ人がいれば、その人の話がいちばんの資料になります。
役職に就かない年収は、30代から伸びにくい
給与の見通しは、数字で見ておきたいところです。賃金構造基本統計調査から、雇用期間の定めがない女性の年収の目安を役職別に計算すると、次のようになります。6
| 年齢 |
非役職 |
係長級 |
課長級 |
| 30〜34歳 |
437.9万円 |
614.4万円 |
688.4万円 |
| 35〜39歳 |
446.1万円 |
592.3万円 |
706.9万円 |
| 40〜44歳 |
451.9万円 |
617.8万円 |
800.2万円 |
| 45〜49歳 |
453.1万円 |
625.4万円 |
760.8万円 |
| 50〜54歳 |
455.0万円 |
617.4万円 |
810.2万円 |
| 55〜59歳 |
458.8万円 |
623.6万円 |
744.5万円 |
非役職の列を追うと、30代前半と50代後半の差は21万円ほど。ほぼ横ばいです。
もう1つ見てほしいのが、係長級の列です。課長級より下でも、非役職とは40代前半で166万円ほど開いています。「管理職にならない」と「役職に一切就かない」は別の選択で、主任や係長までは担う道もあるわけです。
ただし、これは同じ人の歩みではありません。40代前半の平均勤続は非役職が10.6年、係長級が15.2年で、顔ぶれが違います。専門職のコースを別に数えた統計でもないので、見えるのは全体の傾向だけ。
雇用期間の定めがない女性の、役職別と年齢別の年収の目安作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」
自分の場合はどうか。賃金規程で今の等級の上限と、1つ上の等級の額を調べて、10年後の年収を1行で書き出してみてください。
給与より、仕事の中身や働く時間を取る選び方もあります。数字を知っていれば、あとから「こんなはずでは」となりにくいはずです。
「なりたくない」より「ここで貢献したい」
話す相手は、まず直属の上司です。時期は、打診が来る前の評価面談か1on1がいいでしょう。打診のあとだと、どうしても「断る」話になってしまうからです。
評価を決めるのは上司と会社なので、言い方だけで評価を守れるとは言えません。それでも「なりたくない」だけで終わると、上司には何を任せればいいのかが見えないはずです。深めたい分野と、そこで出した実績、次に任せてほしいこと。この3つまで話せれば、配置や来期の目標を一緒に考える相談になります。キャリアの話の切り出し方は、1on1で上司に話すこと 準備メモ5行とキャリア相談の切り出し方でも確認できます。
言いにくい本音は、向きを変えると話しやすくなります。たとえば「責任を負いたくない」は「人をまとめる責任より、担当分野の判断に責任を持ちたい」に。「昇進に興味がない」は「専門性を高める方向で成長したい」に言い換えられます。
もっとも、話したからといって希望がそのまま通るとは限りません。厚生労働省のモデル就業規則には、会社が業務上の必要で担当業務の変更を命じることがあり、働く人は正当な理由なく拒めない、という条があります。7昇進を断れるかどうかを正面から定めた法律の条文は見当たらず、自社の就業規則と個別の事情で変わってきます。
3年後に、変えてもいい
今の希望を、ずっと守らなくてもかまいません。新しい資格を取ったり、暮らしが変わったりすれば、部下を持ちたくなる時期が来るかもしれないし、来ないかもしれない。「今は」と区切って話しておけば、そのとき改めて相談できます。
まずは今週、社内ポータルで「等級」と検索してみてください。そこに載っていることも、載っていないことも、上司に話す最初の1行になります。
記事の制度と数字は、2026年11月6日時点の法令と、厚生労働省などの資料で確認した内容です。残業代の扱いや就業規則の読み方で迷ったときは、都道府県労働局などにある総合労働相談コーナーに無料で相談できます。