名刺を何年とっておくか、法律に決まりは見当たりません。
個人情報保護委員会のQ&Aにも、個人情報保護法では保存期間や廃棄すべき時期を「規定していません」とあります。1引き出しの奥の束を前に迷ってしまうのは、年数という物差しがもともとないからかもしれませんね。だから年末の片づけで決めるのは、この1枚をまた使うかどうかです。
残すか手放すかは、次に使う予定で分ける
残す名刺を引き出しに戻し、箱で仕分けを進めるイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
名刺を1枚ずつ手に取り、下の図の順に問いかけていくと、行き先は4つの箱のどれかに決まります。
残す、引き継ぐ、手放す、迷う箱に分ける3つの問いと、自分で決めてよいこと作成: 編集部 / 出典: 個人情報保護委員会 ガイドライン(通則編)・Q&A
いちばん上に「迷う箱」を置いたのには、理由があります。交渉や契約、トラブルの対応が続いている相手の名刺は、自分の仕事では要らなくなっても、会社には要るかもしれません。ここで止まると片づけ全体が進まないので、箱に入れて先へ進み、あとで上司か総務にまとめて聞けばいいのです。
年賀状を出す会社なら、宛名リストを作る前に済ませておくと、異動や退職の反映が一度で終わります。
整理すると、法律の扱いが変わる
名刺に書かれた氏名と連絡先や所属は、1枚でも個人情報です。その説明は名刺交換のマナーに書きました。年末の整理では、その先にある「個人データ」も頭に入れておくと、話が早くなります。
特定の人を探せるように整理した情報の集まりを、個人情報保護法は「個人情報データベース等」と呼びます。その中身の1件ずつが個人データです。2同じ名刺でも、しまい方で次のように変わります。
| 名刺の状態 |
個人情報データベース等か |
見るところ |
| 分類せず、輪ゴムで束ねただけ |
当たらないと考えられる |
分類していないはがきの例に近い |
| 自分にしか分からない分類の名刺入れ |
当たらない |
他人が容易に探せない |
| 五十音順に並べ、見出しを付けたファイル |
当たる |
ほかの人も探せれば、紙でも対象 |
| 表計算ソフトに入力した一覧 |
当たる |
パソコンの持ち主は問わない |
| 業務で使うスマートフォンの電話帳 |
当たる |
探せる形になっている |
見落としやすいのは下の2行です。自分しか使わない一覧でも、業務に使っていれば、会社のデータベースに当たることがあります。3
つまり、きれいに整理するほど、名刺は法律の内側に入っていきます。
個人データには、使う必要がなくなったら遅滞なく消去するよう努める決まりと、漏えいなどを防ぐ安全管理措置の決まりがかかります。4台帳に入れる予定の名刺も、安全管理の対象です。5
でも、整理しないほうが得という話ではありません。束のままでは、1枚なくなっても気づけないからです。社内では束もファイルもデータも同じ扱いにそろえておくと、担当者が迷わずに済みます。
年数は社内で決めて、年に一度見直す
編集部が2026年11月1日にe-Gov法令検索で「名刺」を全文検索してみると、出てきたのは省令が4本だけ。名刺型の写真や商標の区分などの話で、受け取った名刺の保管にふれたものはありません。「3年」のような数字を見かけても、法律の年数ではないのです。決算書のように年数が決まった書類の保存期間とは、ここが違います。
では、何を手がかりにすればいいのでしょうか。使えるのは、さきほどの「遅滞なく消去」の決まりです。ガイドラインの説明では、使う必要がなくなったときとは、利用目的を果たして持ち続ける理由がなくなったときなど。ただ、法令で保存期間が決まっている記録は、その期間が先です。6
「遅滞なく」に決まった長さはありません。必要以上に長くならないようにしながら、データ管理のサイクルといった実務の都合への配慮は認められています。712月に年1回見直す形なら、この考え方に合わせやすいはずです。
〇年には、自社の取引の周期を入れます。たとえば契約の更新が数年に一度の仕事で、それより短い年数にすると、次の更新のときに相手の連絡先がなくて困るでしょう。
紙もデータも、元に戻せない形で手放す
保管から処分までの方法を、紙とデータに分けて1枚にしました。
名刺の保管から処分までを、紙とデータに分けた早見作成: 編集部 / 出典: 個人情報保護委員会 ガイドライン(通則編)・Q&A
図の中で抜けやすいのは、データの「確認と記録」です。同じ人の連絡先がどこに残っているかは、受け取った本人にしか分かりません。
紙のごみの出し方にも、気をつけたい点があります。会社から出たごみは、事業者が自らの責任で処理するものです。8横浜市は家庭ごみの集積場所に事業系ごみを出すと法令で罰せられることがあると案内し、札幌市の案内でも、少量であっても家庭用のごみステーションは使えません。
枚数が多くて業者に頼むなら、段取りと廃棄証明書の見方は機密書類の廃棄に書きました。
スキャンしてクラウドに入れるときは、会社が認めたサービスかどうかを先に確認します。分かれ目は事業者が個人データを取り扱うことになっているかどうか。取り扱うなら委託か第三者提供になります。取り扱わないと契約で定めていても、自社の安全管理措置は必要です。9外国の事業者なら、外国にある第三者への提供に当たることがあり、当たらない場合もその国の制度の把握が要ります。101人で判断できる話ではないので、個人のアプリに入れる前に、総務か情報システムの担当に聞いておくと安全です。
異動や退職のときは、後任か上長に返す
仲よくなった取引先の連絡先は、自分の財産のように感じますよね。でも、仕事で受け取った名刺は、異動や退職のときに会社へ返すものと考えておきます。
厚生労働省のモデル就業規則には、異動や退職のときに、自らが管理していた会社や取引先の「データ・情報書類等」を速やかに返却するという条文例があります。11紙の名刺もデータも、ここに入ると考えるのが自然でしょう。モデルは例なので、自社の就業規則も開いてみてください。
台帳の名刺を利用目的の範囲で別の部署へ渡すのは第三者提供に当たりませんが、親会社や子会社へ渡すと、原則として当たります。12持ち出しは会社の問題にもなります。従業者が顧客の個人データを不正に持ち出して第三者に提供した場合は、ガイドラインで委員会への報告が要る事例に挙がっています。13
不正競争防止法の営業秘密に当たるかは、情報の中身と会社の管理のしかた次第です。経済産業省の説明によると、有用性、秘密管理性、非公知性の3つを満たす情報のことです。14名刺1枚で言い切れる話ではないので、迷ったら会社の法務か弁護士に相談してください。
個人的なつきあいを続けたい相手なら、退職のあいさつのときに本人から連絡先を聞けば足ります。
1時間で片づける年末の段取り
時間は目安で、枚数が多ければ2回に分けてもかまいません。日付と枚数の記録は少し面倒ですが、来年の見直しの手がかりになります。
- 机と名刺入れ、かばんから名刺を全部出す(10分)。
- 残す、引き継ぐ、手放す、迷うの4つの箱に分ける(20分)。
- 残す名刺を、会社の台帳かファイルに入れる(15分)。
- 手放す名刺をシュレッダーにかける(5分)。
- 同じ人のデータを、スマートフォンや表計算から消す(5分)。
- 細断した日と枚数を記録する(2分)。
- 迷う箱を上司か総務に渡す(3分)。
「今年は〇枚残して、〇枚を細断しました」と数字で言えて、後任にそのまま渡せる台帳がある。異動が急に決まっても慌てませんし、丁寧に引き継げる人には、次の仕事も任せやすいものです。
この記事は2026年11月1日時点の個人情報保護法、ガイドライン、Q&Aをもとにしています。改正法が2026年7月17日に公布され、一部を除き公布から2年以内に施行されるので、条文の番号や中身は変わることがあります。自社の規程や個別の判断に迷うときは、社内の担当部署か、個人情報保護委員会の相談ダイヤル(03-6457-9849)に相談してください。