令和7年(2025年)に労働災害で亡くなった人は700人で、統計の上で最も少なくなりました。一方、けがや病気で4日以上休んだ人は135,333人で、前の年とほぼ同じです。厚生労働省は2026年5月27日に、この確定値を公表しました。業種別・事故の型別・年齢別の数字を読み、事務の職場でも他人事ではない転倒を中心に、総務・労務の担当者ができる対策を整理します。
死亡は過去最少、けがで休む人は横ばい 令和7年の確定値
厚生労働省の「令和7年の労働災害発生状況」は、令和7年1月から12月に起きた労働災害を、令和8年4月7日までに報告があった分で集計した確定値です。数字はいずれも、新型コロナウイルス感染症への感染による労災を除いています。通勤中の災害も含みません。
| 区分 |
令和7年 |
前年比 |
| 死亡者数 |
700人 |
46人減(6.2%減)・過去最少 |
| 休業4日以上の死傷者数 |
135,333人 |
385人減(0.3%減) |
2つの数字は、集計のもとが違います。死亡者数は、死亡災害報告から集計します。死傷者数は、事業者が労働基準監督署に出す労働者死傷病報告をもとに、休業4日以上の人を数えたものです。
計画の面では、令和5年度から9年度までが第14次労働災害防止計画の期間です。厚生労働省は、令和9年までに令和4年と比べて、建設業と林業の死亡災害をそれぞれ15%以上減らす目標を立てています。製造業の機械によるはさまれ・巻き込まれの死傷者数と、陸上貨物運送事業の死傷者数は、それぞれ5%以上減らす目標です。
業種別 件数が多いのは製造業、商業、保健衛生業
休業4日以上の死傷者数が最も多いのは製造業の26,371人で、商業の23,128人、保健衛生業の19,291人、陸上貨物運送事業の15,632人、建設業の13,437人と続きます。
業種別の休業4日以上の死傷者数と死亡者数(令和7年)作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」別表1・2
| 業種 |
死傷者数 |
前年比 |
死亡者数 |
| 製造業 |
26,371人 |
1.1%減 |
115人 |
| 商業 |
23,128人 |
4.9%増 |
61人 |
| うち小売業 |
16,464人 |
0.1%減 |
41人 |
| 保健衛生業 |
19,291人 |
2.2%増 |
18人 |
| うち社会福祉施設 |
13,743人 |
1.7%減 |
13人 |
| 陸上貨物運送事業 |
15,632人 |
4.1%減 |
80人 |
| 建設業 |
13,437人 |
3.0%減 |
214人 |
| 接客・娯楽 |
10,238人 |
1.0%増 |
20人 |
| うち飲食店 |
5,896人 |
0.2%減 |
2人 |
| 全産業 |
135,333人 |
0.3%減 |
700人 |
死亡者数は様子が違います。建設業が214人で最も多く、製造業の115人、陸上貨物運送事業の80人、商業の61人が続きます。建設業・製造業・陸上貨物運送事業の3つで409人となり、全体の58.4%を占めます(編集部の計算)。
厚生労働省の資料は、この3業種のほかに、第三次産業(小売業・社会福祉施設・飲食店など)を分けて示しています。けがで休む人の数では、第三次産業の存在感が大きい年です。小売業・社会福祉施設・飲食店の3つを合わせると36,103人で、死傷者全体の26.7%にあたります(編集部の計算)。
事故の型別 けがは転倒、死亡は墜落・転落が最多
事故の型で見ると、けがの1位は転倒です。休業4日以上の死傷者数の27.5%を占め、前年から817人(2.2%)増えました。2位は腰痛などの動作の反動・無理な動作で、3位は墜落・転落です。
事故の型別の休業4日以上の死傷者数と死亡者数(令和7年)作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」別表3・4
| 事故の型 |
死傷者数(割合) |
前年比 |
死亡者数 |
| 転倒 |
37,195人(27.5%) |
817人増 |
25人 |
| 動作の反動・無理な動作 |
22,166人(16.4%) |
52人減 |
0人 |
| 墜落・転落 |
20,864人(15.4%) |
165人増 |
186人 |
| はさまれ・巻き込まれ |
13,047人(9.6%) |
503人減 |
117人 |
| 切れ・こすれ |
7,245人(5.4%) |
175人減 |
0人 |
| 交通事故(道路) |
6,984人(5.2%) |
- |
126人 |
動作の反動・無理な動作は、重いものを持ち上げたときの腰痛など、体の動かし方が原因のけがを指します。
死亡の1位は墜落・転落の186人で、交通事故(道路)の126人、はさまれ・巻き込まれの117人が続きます。転倒で亡くなった人は25人で、死亡全体の3.6%です。転倒は、死亡よりも、けがで長く休む人が多いタイプの事故です。
10年の推移 死亡は減り、けがで休む人は増えた
平成28年(2016年)から令和7年までの10年で、死亡者数は928人から700人へ、228人減りました。同じ期間に、休業4日以上の死傷者数は117,910人から135,333人へ、17,423人(14.8%)増えています。
労働災害の死傷者数と死亡者数の推移(平成28年〜令和7年)作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」別表1・2
| 年 |
死亡者数 |
死傷者数 |
保健衛生業 |
商業 |
建設業 |
| 平成28 |
928人 |
117,910人 |
11,513人 |
17,693人 |
15,058人 |
| 平成30 |
909人 |
127,329人 |
13,208人 |
19,744人 |
15,374人 |
| 令和2 |
784人 |
125,115人 |
15,708人 |
20,042人 |
14,790人 |
| 令和4 |
774人 |
132,355人 |
17,237人 |
21,702人 |
14,539人 |
| 令和6 |
746人 |
135,718人 |
18,867人 |
22,039人 |
13,849人 |
| 令和7 |
700人 |
135,333人 |
19,291人 |
23,128人 |
13,437人 |
増えたのは、保健衛生業(平成28年の約1.7倍)と商業(約1.3倍)です。製造業は26,454人から26,371人でほぼ横ばい、建設業は15,058人から13,437人に減りました。事故の型ごとの長い推移は今回の資料に載っていないため、転倒が何年から増えたかは、この記事では述べません。
高年齢の労働者が多い 死傷者の4割強は55歳以上
令和7年の死傷者数を年齢別に見ると、50歳代が35,817人で最も多く、60歳代が28,936人、40歳代が22,493人です。55歳以上は60,742人で全体の44.9%、60歳以上は42,318人で31.3%でした(いずれも編集部の計算)。
| 年齢 |
死傷者数 |
| 29歳以下 |
18,857人 |
| 30歳代 |
15,848人 |
| 40歳代 |
22,493人 |
| 50歳代 |
35,817人 |
| 60歳代 |
28,936人 |
| 70歳以上 |
13,382人 |
この表の数字は人数で、年齢別の労働者数は考えていません。転倒に絞った資料は、年齢の影響をもっとはっきり示しています。厚生労働省は、第14次労働災害防止計画の進み具合を公表しています。その令和5年(2023年)の転倒の死傷年千人率(労働者1,000人あたりの1年間の死傷者数)は、女性の25〜29歳で0.142、65〜69歳で2.643でした。約19倍です。男性は65〜69歳で0.982と、女性ほど上がりません。
転倒の対策は、年齢の高い人、とりわけ女性の多い職場で重みが増します。
事務の職場に近い業種でも、転倒は多い
事務の仕事が多い職場は、製造や建設ほど目立たないものの、転倒の割合は低くありません。厚生労働省の別表には、業種ごとの事故の型別の死傷者数があります。
| 業種 |
死傷者数 |
うち転倒 |
転倒の割合 |
| 金融・広告 |
1,098人 |
459人 |
41.8% |
| 小売業 |
16,464人 |
6,132人 |
37.2% |
| 保健衛生業 |
19,291人 |
6,851人 |
35.5% |
| 接客・娯楽 |
10,238人 |
3,591人 |
35.1% |
| 商業 |
23,128人 |
7,954人 |
34.4% |
| 通信 |
2,522人 |
777人 |
30.8% |
| 全産業 |
135,333人 |
37,195人 |
27.5% |
| 製造業 |
26,371人 |
5,732人 |
21.7% |
| 陸上貨物運送事業 |
15,632人 |
2,972人 |
19.0% |
| 建設業 |
13,437人 |
1,579人 |
11.8% |
割合は、別表4の人数から編集部が計算しました。金融・広告業と通信業は、オフィスで働く人が多い業種です。全員が事務職とは限りませんが、転倒の割合は全産業の27.5%を上回っています。
保健衛生業では、腰痛などの動作の反動・無理な動作も6,340人(32.9%)と多く、社会福祉施設では4,659人(33.9%)でした。介護の仕事は、転倒と腰痛の両方が起きやすい職場です。
転倒は、段差のない平らなオフィスの廊下でも起きます。起きる場所が身近なぶん、会社が点検で減らせる余地も大きい事故です。
転倒を防ぐ 厚生労働省の対策と、法令上の決まり
厚生労働省と労働災害防止団体は、転倒災害を減らす「STOP!転倒災害プロジェクト」を進めています。重点取組期間は2月と6月です。リーフレットは、転倒の原因を、滑り・つまずき・踏み外しの3つに分けています。
| 原因 |
主な例 |
対策の例 |
| 滑り |
床が滑りやすい素材。水や油が飛んでいる。ビニールや紙が落ちている |
床の汚れをその都度取る。作業に合った靴を履く。滑る場所では小さな歩幅で歩く |
| つまずき |
床の凹凸や段差。荷物や商品が置いてある |
通路に物を置かない。段差をなくす。ステッカーで注意を促す |
| 踏み外し |
大きな荷物を抱えて足元が見えない |
足元が見えない状態で作業しない。時間に余裕を持って行動する |
対策の土台は4S(整理・整頓・清掃・清潔)です。ほかに、段差の解消、明るさの確保、作業に合った靴、ポケットに手を入れて歩かない、ストレッチなどの運動があります。
法令にも、床と通路についての決まりがあります。労働安全衛生規則は、事業者に次のことを求めています(2026年10月25日時点のe-Govの条文)。
- 作業場の床面を、つまずき・すべり等の危険がなく、安全な状態に保つ(第544条)
- 屋内の通路面を、つまずき・すべり・踏抜等の危険がない状態に保ち、通路面から高さ1.8メートル以内に障害物を置かない(第542条)
- 通路には、通行を妨げない程度に、採光または照明の方法を講じる(第541条)
第14次労働災害防止計画の転倒の目標は、令和9年(2027年)までに、次の3つです。
- 転倒の対策(設備の改善と、危険の見える化や体づくりなどの両面)に取り組む事業場を50%以上にする(2022年は15.0%)
- 年齢層別の転倒の死傷年千人率について、男女ともその増加に歯止めをかける
- 転倒による平均休業見込日数を40日以下にする(2022年は48.5日)
厚生労働省の2024年の資料では、2023年に設備の改善(ハード対策)に取り組んだ事業場は78.1%でした。一方、危険の見える化や転倒しにくい体づくりなどのソフト対策は15.6%にとどまります。取り組まない理由は、「取り組み方がわからない」が32%、「他の経営課題と比べて優先順位が低い」が31%でした。床や通路を直すだけでなく、教育や運動まで広げることが、会社に求められています。
転倒の年齢別の死傷年千人率と、職場の転倒の点検9項目作成: 編集部 / 出典: 厚生労働省「第14次労働災害防止計画1年目の実施状況について」・STOP!転倒災害プロジェクト
労災が起きたときに会社がすること
社員がけがをしたとき、会社が求められる手続きは2つあります。
- 労働者死傷病報告: 労働者が労働災害で死亡または休業したとき、事業者は所轄の労働基準監督署長に電子申請で報告します。休業が4日以上なら遅滞なく、4日に満たなければ、1〜3月、4〜6月、7〜9月、10〜12月の各期間の翌月末日までに出します(労働安全衛生規則第97条)。
- 労災保険の請求の手伝い: 保険給付を受ける人が事故のために自分で請求できないときは、事業主が手続きを手伝います。必要な証明を求められたら、すみやかに応じます(労働者災害補償保険法施行規則第23条)。
労災保険の法改正は、労災保険法の改正で会社がすることにまとめました。製造業の事業場で安全管理者・衛生管理者などを置く基準は、製造業の安全衛生管理体制で確認できます。
自社の転倒を点検する手順
統計を読んだ後は、自社の職場に当てはめます。1回目は、次の順で1時間ほどで済みます。
- 自社の業種の数字を見る: この記事の業種別の表で、自社に近い業種の死傷者数と、転倒の割合を確認します。小売・社会福祉施設・飲食店など、転倒の割合が3割を超える業種は、点検の優先度が高くなります。
- 過去のけがとヒヤリハットを集める: 過去3年ほどの労災、通院した社員の報告、「つまずいた」「滑った」という声を、場所ごとに一覧にします。
- 通路を歩いて点検する: 廊下・階段・出入口・給湯室・更衣室・駐車場・倉庫を歩き、下のチェックリストで確かめます。雨の日の出入口は、天気の悪い日にもう一度見ます。
- 危険な場所に印をつける: 段差や滑りやすい場所には、ステッカーや色テープで印をつけ、危険マップに書き込んで社内に共有します。
- ソフト対策を1つ足す: 安全衛生委員会や朝礼で転倒の事例を共有します。始業前のストレッチや、ポケットに手を入れて歩かないルールも取り入れます。年齢の高い社員が多い職場は、靴や階段の手すりを優先して見直します。
- 年2回、決まった時期に点検する: STOP!転倒災害プロジェクトの重点取組期間(2月と6月)に合わせると、続けやすくなります。
数字は、令和7年の確定値(2026年5月27日公表)で確かめました。個別の労災の判断や、従業員への補償・責任の扱いは、所轄の労働基準監督署か社会保険労務士に相談してください。