社員から「妊娠しました」と報告を受けたとき、労務担当は、産前から復帰まで1年以上続く手続きの窓口になります。出す先が日本年金機構、協会けんぽ、ハローワークの3つに分かれ、期限もそれぞれ違うため、順番を先に決めておくと慌てません。この記事は、2026年10月22日時点の公式資料をもとに、書類と提出先、給付金、保険料の免除を時系列で確かめます。
妊娠の報告を受けたら、最初に聞くことと伝えること
最初の面談で聞くのは、出産予定日、産前休業をいつから取りたいか、育児休業をいつまで取りたいか、復帰の希望です。出産予定日がわかれば、産前産後休業の期間が決まります。産前は予定日の42日前(双子以上は98日前)から、産後は出産の翌日から8週間です。
産前の休業は、本人が請求したときに休業させる決まりです。産後8週間は、原則として働かせてはいけません。産後6週間を過ぎた女性が請求し、医師が支障がないと認めた業務なら、働かせてよいとされています。いずれも労働基準法第65条の定めです。
伝えることは3つです。休業中の給与を払うかどうかは、会社の規程で決まっていること。健康保険から出産手当金、雇用保険から育児休業給付金が出ること。保険料は、申出書を出せば休業中に免除されること。細かい金額は、あとでわかる範囲で構いません。
時系列の早見表 いつ、何を、どこへ出すか
全体の流れを、図と表にまとめました。協会けんぽに加入している会社の場合です。健康保険組合に加入している会社は、給付の申請先と様式が加入先で変わります。
産休・育休の手続き 時系列の早見表(書類・提出先・期限)作成: 編集部 / もとの資料: 日本年金機構・協会けんぽ・厚生労働省の公式資料
| 段階 |
書類・手続き |
提出先 |
期限・めやす |
| 妊娠の報告 |
予定日・休業の希望を聞く |
社内 |
予定日が決まったら早めに |
| 産前休業 |
産前産後休業取得者申出書 |
事務センターまたは年金事務所 |
休業中、または終了日から1か月以内 |
| 出産 |
出産育児一時金・被扶養者(異動)届・変更(終了)届 |
協会けんぽ支部・年金事務所 |
被扶養者届は事実発生から5日以内 |
| 産後休業 |
出産手当金の申請(事業主の証明) |
協会けんぽ支部 |
休業の分ごとに申請できる(時効は2年) |
| 育児休業 |
育児休業等取得者申出書・受給資格確認票と初回の申請 |
年金事務所など・ハローワーク |
申出書は休業中か終了後1か月以内。給付は開始日から4か月を経過する日の属する月の末日まで |
| 復帰 |
報酬月額変更届・養育期間標準報酬月額特例申出書 |
事務センターまたは年金事務所 |
変更届は速やかに。特例は本人の申し出があったとき |
子の分の被扶養者(異動)届は、出生届の後に、本人から出生日や名前を聞いて出します。
産前産後休業の保険料免除は、申出書を1枚出します
産前産後休業の間は、健康保険と厚生年金保険の保険料が、本人と会社の両方で免除されます。免除を受けるには、会社が「産前産後休業取得者申出書」を年金事務所か事務センターに出します。添付書類は要りません。
出すのは、休業をしている間か、休業が終わった日から1か月以内です。休業中の給与が有給か無給かは、申出の可否に関係しません。電子申請、郵送、窓口持参(年金事務所のみ)で出せます。
出産日が予定日と違ったときは、産前産後休業取得者変更(終了)届を速やかに出します。予定日より前に出産した場合と、後に出産した場合が対象です。予定日どおりに出産した場合や、出産の後に申出書を出した場合は、変更の届は要りません。なお、事業主や役員でも、被保険者であれば産前産後休業の免除は受けられます。
免除の月は、産休を始めた月から、終了日の翌日が属する月の前月までです。終了日が月の末日なら、終了月まで免除になります。免除の間も被保険者の資格は変わらず、将来の年金額は、保険料を納めた期間として計算されます。
育児休業の免除は、月末と14日と賞与で数えます
育児休業の免除も、会社が「育児休業等取得者申出書」を出します。対象は、満3歳未満の子を育てるための育児休業と、それに準ずる休業、そして産後パパ育休です。申出は休業のたびに必要で、休業中か、終了後1か月以内に出します。
免除の月は、育休を始めた日の属する月から、終了日の翌日が属する月の前月までです。月の途中で終わると、その月は免除されません。月末まで休むと、その月は免除に入ります。
開始の月と終了日の翌日の月が同じになる短い休業は、そのままだと免除の月が1つもなくなります。そこで、令和4年10月1日以降に始めた休業は、開始日の含まれる月に14日以上休むと免除されます。男性の短い育休で、よく問題になる点です。
社会保険料の免除 産休と育休の決まり(月末・14日・賞与)作成: 編集部 / もとの資料: 日本年金機構の産休・育休の手続きのページ
賞与の保険料も免除されます。ただし、令和4年10月1日以降に始めた育休は、賞与を払った月の末日を含む、連続した1か月を超える休業を取った場合に限られます。月末をまたぐ休業でも、1か月以内で終わると、その月の賞与は免除されません。賞与の支給月は、休業の日付と照らして確かめます。
| 育休の期間(架空の例) |
免除される月 |
理由 |
| 4月10日から6月20日 |
4月・5月分 |
終了日の翌日(6月21日)が6月で、その前月まで |
| 4月10日から6月30日 |
4月・5月・6月分 |
終了日の翌日(7月1日)が7月で、その前月まで |
| 4月5日から4月24日 |
4月分 |
同じ月内に20日で、14日以上 |
| 4月5日から4月14日 |
免除なし |
同じ月内に10日で、14日未満 |
育休の免除と産休の免除が重なる期間は、産休の免除が優先されます。育休を予定より早く終えたときは、育児休業等取得者終了届を出します。別の子の産前産後休業を、育休が終わる前に始めた場合は、この終了届は要りません。
出産手当金と出産育児一時金 会社がやることは限られます
出産手当金は、出産のために会社を休み、給与が出なかった期間に出ます。対象は、出産日以前42日(多胎は98日)から、出産の翌日以後56日までの範囲です。出産が予定日より遅れたときは、遅れた日数も対象になります。
日額は、支給開始日以前の12か月の標準報酬月額の平均を30で割り、3分の2をかけた額です。協会けんぽの例では、平均が17万円なら、日額は約3,780円になります。休んだ期間に給与が出ても、その日額が出産手当金より少なければ、差額が出ます。
出産手当金の申請書は、本人、医師か助産師、会社の記入が必要です。会社が書く事業主の証明の書き方は、傷病手当金・出産手当金の事業主の証明 会社の書き方と出し方にまとめました。この記事では繰り返しません。
出産育児一時金は、子1人につき原則50万円です(産科医療補償制度に加入している医療機関で、在胎週数22週以降の出産の場合。22週に達しない出産は48.8万円)。多くは直接支払制度を使い、協会けんぽから医療機関へ直接払われます。本人は医療機関で同意の文書を書くだけで、会社の記入は要りません。
育児休業給付金の申請は、初回と2回目以降で書類が違います
育児休業給付金は、雇用保険から出ます。休業の開始から180日までは休業開始時賃金日額の67%、181日目からは50%です。給付は非課税で、育休中は社会保険料の免除もあります。会社が給与を払わなければ、雇用保険料の負担もありません。
受け取るには、休業を始める前の2年間に、賃金の支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上あることが条件です。有期雇用の人は、子が1歳6か月に達する日までに、契約が終わることが明らかでないことも要ります。1支給単位期間(開始日から1か月ごと)の就業日数は、10日以下(超えるときは80時間以下)です。
申請の窓口は、事業所の所在地を管轄するハローワークです。電子申請も使えます。会社が出すのが原則で、本人が希望すれば本人が出すこともできます。
産休・育休中にもらえるお金 給付の種類と率・申請の要点作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省「育児休業等給付の内容と支給申請手続」
初回の申請
初回は、受給資格の確認と一緒に出します。出す書類は、雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書と、育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書の2つです。添付するのは、賃金台帳、出勤簿、育児休業申出書などと、母子健康手帳(出生届出済証明のページと予定日のページ)や住民票など、育児の事実を確認できるものです。
期限は、育休を始めた日から4か月を経過する日の属する月の末日です。たとえば7月10日に始めたなら、4か月を経過する日は11月9日で、期限は11月30日になります。母親が産後休業の後に続けて育休を取る場合、育休の開始日は出生日から数えて58日目になります。
2回目以降の申請
2回目以降は、原則2か月に一度、育児休業給付金支給申請書を出します。本人が希望すれば1か月に一度もできます。出す日は、ハローワークが交付する「育児休業給付次回支給申請日指定通知書」に書かれています。この通知書の日付を、台帳に控えておくのが実務の要です。
育休を2回に分けて取る場合は、2回目は受給資格の確認は要りませんが、初回と同じ様式で出す必要があります。1歳を過ぎて延長する場合や、保育所に入れないときの延長は、確認の書類が加わります。くわしくはハローワークに確かめます。
会社が育休中に賃金を払うとき
会社が払った賃金が、休業開始時賃金日額に休業の日数をかけた額の13%以下なら、給付金は減りません。13%を超え80%未満だと、賃金との合計が80%になるように減ります。賃金が80%以上なら支給されません。賃金の締め日と支払日が育休の日付とずれる月は、どこまでが育休期間の賃金かを切り分けます。
出生後休業支援給付金の13%
2025年4月に始まった給付で、育児休業給付金(または出生時育児休業給付金)に13%が上乗せされます。合わせて80%になります。条件は、本人が給付の対象になる休業を通算14日以上取ること、配偶者も同じ期間に通算14日以上育休を取ることです。配偶者が自営業やフリーランス、無業者、産後休業中の場合などは、配偶者の育休がなくても要件を満たします。
支給は最大28日分で、初回の申請書と一体で出すのが原則です。賃金日額の上限が16,540円(2027年7月31日まで)なので、28日分の上限額は60,205円です。2027年8月1日以降の額は、そのときに公式で確かめます。
男性の育休 産後パパ育休(出生時育児休業)の手続き
産後パパ育休は、子の出生後8週間以内に、合計4週間(28日)まで、2回に分けて取れる休業です。育児休業とは別に取れます。保険料の免除は、通常の育休と同じく育児休業等取得者申出書を出し、同じ月内に14日以上休めば免除されます。
給付は、出生時育児休業給付金です。率は67%で、産後パパ育休を通算14日以上取ると、出生後休業支援給付金の13%が加わることがあります。たとえば賃金日額が1万円で14日休むと、67%の分は93,800円、13%の分は18,200円です。賃金日額の上限が16,540円なので、28日分の上限は310,290円と60,205円です。
休業中に最大10日(超えるときは80時間)まで就業できます。休業が28日より短いと、その日数に比例して短くなります。14日休むなら、働けるのは最大5日です。
申請は、出生日(予定日より前に生まれたときは予定日)から8週間を経過した日の翌日から出せます。期限は、そこから2か月を経過する日の属する月の末日です。2回に分けて取った場合も、申請は1回にまとめます。書類は、育児休業給付受給資格確認票・出生時育児休業給付金/出生後休業支援給付金支給申請書などです。
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復帰するときの手続きは、月額変更届と養育期間の特例です
育休から戻った社員は、時短勤務などで給与が下がることがあります。そのとき使うのが、次の3つです。
| 届書 |
目的 |
出すとき |
| 産前産後休業終了時報酬月額変更届 |
産休明けの給与で、標準報酬月額を見直す |
速やかに(本人の申し出を受けて) |
| 育児休業等終了時報酬月額変更届 |
育休明けの給与で、標準報酬月額を見直す |
速やかに(本人の申し出を受けて) |
| 養育期間標準報酬月額特例申出書 |
将来の年金額を、子が生まれる前の月額で計算する |
本人の申し出があったとき |
終了時の月額変更届は、休業が終わった日の翌日が属する月から3か月の報酬の平均で、4か月目の標準報酬月額を改定できる制度です。通常の随時改定に当たらなくても使えます。ただし、改定の前後で標準報酬月額に1等級以上の差があり、3か月のうち1か月は支払基礎日数が17日以上(特定適用事業所の短時間労働者は11日以上)あることが条件です。
たとえば、育休が2028年1月31日に終わり、2月1日に復帰したとします。2月・3月・4月の報酬を平均し、5月から新しい標準報酬月額になります。1月から6月に改定された月額は、その年の8月まで使われます。随時改定の考え方は、算定基礎届の書き方 対象者・報酬の範囲・支払基礎日数を記入例で確かめるで確かめられます。
養育期間の特例は、子が3歳になるまで、標準報酬月額が下がっても、将来の年金額は子が生まれる前の月額で計算する仕組みです。本人が事業主を通じて申出書を出します。戸籍謄本か住民票の写しの添付が要りますが、マイナンバーの記載などで省略できる場合があります。申出日より前の分は、申出日の前月までの2年間がさかのぼれる範囲です。
育休明けの短時間勤務には、育児時短就業給付金もあります。2歳未満の子を育てるため、週の所定労働時間を短くして働く人が対象です。賃金が時短前の90%以下の月は、賃金の10%が出ます。初回の申請は、時短を始めた月の初日から4か月以内にハローワークへ出します。
社員への説明の文例
よくある間違い
出産手当金の申請で、事業主の証明を会社が忘れて、本人が申請をやり直す例もあります。出産前のうちに、申請書の事業主記入用の取りまとめ役を、人事のだれにするか決めておくと防げます。
今日からできること