副業の話がまとまって、業務委託契約書のPDFが届く。本業のあとに細かい条文を最後まで読むのは、なかなか大変ですよね。
見るのは8か所で足ります。ただ、その前に聞いておきたいのが、相手に従業員がいるかどうか。相手が一人で営む個人や会社なら、フリーランス法の支払期日も解除の予告も義務にならず、契約書の言葉がいちばんの頼りになります。
法律が守る範囲は、相手と期間で変わる
届いた契約書の見る所に、付せんを貼っていくイラスト: 編集部が画像生成AIで作成したイメージ(YOBITSUGI AI・OpenAI gpt-image-2.5-sunburst)
厚生労働省の案内によると、会社に雇われている人が「副業で行う事業について、事業者として他の事業者から業務委託を受けている場合」も、フリーランス法の「特定受託事業者」に当たります。自分が従業員を使っていないことが前提で、発注者の義務は相手の形で変わります。1
| 法律の決まり |
従業員のいない個人、一人社長の会社 |
従業員がいる相手、役員が2人以上の法人 |
| 条件を書面やメールで示す |
義務 |
義務 |
| 受け取った日から60日以内の具体的な日に払う |
義務ではない |
義務 |
| 報酬の減額や不当なやり直しなど7つの禁止 |
対象外 |
1か月以上の委託で対象 |
| 解除や更新しないときの30日前の予告 |
対象外 |
6か月以上の委託で対象 |
まず見るのは真ん中の列です。知人の個人事業主から受ける仕事なら、ここに入るかもしれません。
従業員に当たるのは、週20時間以上で31日以上の雇用が見込まれる人。「従業員の方はいらっしゃいますか」と聞けば足ります。
発注者の形と委託の期間で変わる、フリーランス法の義務の範囲(2026年10月時点)作成: 編集部 / 出典: 公正取引委員会 フリーランス法Q&A、厚生労働省、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律
契約書が届かなくても、条件を書面やメールで示す義務は相手がだれでもあります。フリーランス・トラブル110番の相談事例集には、口約束のまま未払いが70万円に達した例もありました。業務内容と報酬額だけでも、メールで合意してから始めましょう。
自分の契約書と比べる相手には、国のガイドラインに付いている契約書のひな型が使えます。短い書式で、使用例付きです。会社の側の見方は契約書のチェックポイントへ。
「報酬10万円」の入金は2万円以上ずれる
金額の欄は、数字より隣の言葉を先に読みます。
| 契約書と請求書の形 |
請求額 |
源泉徴収 |
入金額 |
| 税別10万円、源泉徴収なし |
110,000円 |
なし |
110,000円 |
| 税込10万円、源泉徴収なし |
100,000円 |
なし |
100,000円 |
| 税別10万円、源泉徴収あり(請求書で消費税を分ける) |
110,000円 |
10,210円 |
99,790円 |
| 税込10万円、源泉徴収あり(請求書で消費税を分けない) |
100,000円 |
10,210円 |
89,790円 |
消費税10%、対象の額が100万円以下のときの計算です。上と下の差は20,210円。請求書で消費税を分けないと、消費税を含めた全額に10.21%がかかります。
源泉徴収がかかるのは、原稿やデザインの報酬、講演料など。給与を払っていない個人が相手なら引かれません。2請求書は源泉徴収ありの請求書の書き方、インボイスは副業のインボイス登録は必要?で詳しく説明しています。
支払期日は、日付まで決まっているでしょうか。従業員がいる相手なら60日以内で、数え始めるのは原則として、検収が済んだ日ではなく受け取った日です。書き方の良しあしはフリーランス法の発注書が参考になります。
見落としやすいのは手数料と経費です。1か月以上の委託で従業員がいる相手なら、振込手数料を報酬から引くことは、合意があっても減額に当たります。交通費や素材代は、精算について何も書いていないと、書かれた報酬の額だけを払う意味になります。3国のひな型には「諸経費は、甲の負担とする。」「振込手数料は、甲の負担とする。」とあります(甲は発注者)。
納期は「完了の日」と修正の回数まで
「業務委託」は民法の契約の種類にはない名前です。仕事を完成させて報酬を得るなら請負、事務の処理を引き受けるなら準委任に近い形になります。4「完成」「検収」とあるか、「稼働」「月○時間」とあるかで、おおよその見当はつきます。
作る仕事なら、発注者の確認がいつ終わるかも書いてあるとよいでしょう。納期の日付だけでは、完了したのかどうかが宙に浮きます。
修正は、もめやすい所かもしれません。110番の事例には、15万円で合意した動画を納品したら「この出来では5万円しか出せない」と言われた相談がありました。回数と料金が書いてあれば、話し合いの土台になります。国の使用例は雑誌の原稿の仕事で、修正指示を2回まで、1回あたり1,000円(税別)としていました。
権利と秘密は、次の仕事に響く
制作料をもらったら、著作権も渡したことになるのでしょうか。
110番の事例によると、対価を受け取っただけでは譲渡になりません。でも、契約書に「著作権は甲に譲渡する」とあれば渡すことになるので、対価も読んでおきたいところ。国の使用例には、報酬5万円とは別に著作権の対価を1万5,000円とする書き方が載っています。
実績として名前を出せるかも、見ておきたい1行です。転職や次の案件で話せるかどうかが、ここで変わります。国のガイドラインも、実績の公表を必要以上に一方的に制限する秘密保持義務を、問題となり得る例に挙げています。
秘密保持には向きが2つあります。副業先の情報は、範囲と期間に加えて、生成AIに入力してよいかも聞いておくと迷いません。本業の情報は、持ち込まないこと。雇われている人には勤め先の秘密を守る義務があるので、顧客リストや資料を使い回さず、本業のパソコンやアカウントでも作業しないと決めておきます。5
「競合先の業務をしない」のような条項があれば、本業の勤め先が当たらないか読み返してみてください。本業の決まりは副業の就業規則の確認へ。
途中で終わるときのお金を決めておく
解除の予告は、表のとおり限られた場面の義務です。予告がなかったときに解除が有効かどうかも、この法律では決まらず、民事の争いになります。6
だから、途中までの報酬を見ておきます。民法には、すでにした分の割合で報酬を請求できる場合の定めがあります。7それでも110番には、3か月の契約を途中で解除したら「報酬は一切支払わない」と言われた相談もありました。国のひな型の「中途で終了した場合でも、実施割合・機能に相当する報酬を支払う。」の1行があれば、話はずっと早いはずです。
自分からやめるときの手順も、副業なら見ておきたい所です。本業の異動や忙しさで続けられなくなることは、十分ありますよね。民法では、準委任に当たる形はどちらからでも解除できますが、相手に不利な時期なら賠償が生じることがあります。請負で民法が定める、理由を問わない途中の解除は、注文者からのものです。8何日前に伝えれば抜けられるかを書いてもらうと安心です。
損害賠償は、まず上限の有無から。民法に金額の上限の定めはないので、上限の条項がなければ、報酬より大きな額を求められる余地が残ります。9110番も、損害賠償と称して報酬から一方的に差し引かれる相談が多いと書いています。
指示の受け方が社員に近いとき
名前が業務委託でも、労働者かどうかは働き方の実態で決まります。国のガイドラインの目安は、仕事を断れるか、細かい指揮命令を受けるか、場所と時間を管理されるか、代わりの人を立てられるか、報酬が時間で決まるかなど。1つ当てはまっただけでは決まらず、全体を見ます。労働者に当たれば労働基準法などが適用され、労働時間の通算も関わります。迷うときは総合労働相談コーナーで聞けます。
署名の前のチェックリスト
業務委託契約書で署名の前に見る8か所と、基準になる決まりや資料(2026年10月時点)作成: 編集部 / 出典: 公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省 フリーランスガイドライン別添ほか
足りない行は聞いて大丈夫です。文面は短くて構いません(編集部の例です)。
聞くなら、条項を絞って無料で
フリーランス・トラブル110番は厚生労働省の委託事業で、弁護士に無料で相談できます。電話は0120-532-110(9時30分〜16時30分、土日祝日を除く)、メールは随時。
ただ、「網羅的なリーガルチェックは出来ません」とあるので、「この条項は変えてもらえるか」と絞って聞きましょう。勤務中の電話が心配なら、出られない時間帯を伝えられますし、メールなら通常3〜4営業日で返信があります。法律の当てはめは、公正取引委員会の窓口や都道府県労働局でも聞けます。
届いているPDFがあるなら、今夜は「修正」と「解除」で検索してみてください。書いていなければ、それが最初に聞く1行です。契約書の言葉で条件を話せるようになると、次の案件でも、本業で発注する側に回ったときも、その経験がそのまま生きます。
2026年10月30日時点の法令と公正取引委員会、厚生労働省、国税庁の資料で確認しました。個別の契約は弁護士や上の窓口に、税金は税務署か税理士に相談してください。