厚生労働省は2026年10月22日、雇用保険法施行規則の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第149号)を公布し、産業雇用安定助成金に「令和八年熊本地震災害特例人材確保支援コース」を新設しました(e-Govの結果公示)。同じ日に、コースの案内ページ、ガイドブック、支給要領、FAQが公表されています。
先に出したニュース記事では、対象や支給額、期限は発表に書かれていませんでした。この記事は、その後に厚生労働省のページで確かめられた中身を、出向を送り出す会社と受け入れる会社の実務に合わせて整理したものです。2026年10月23日時点の内容で、制度は今後変わることがあります。
このコースは何を助成するのか
在籍型出向とは、元の会社の従業員の地位を持ったまま別の会社で働き、期間が終わったら元の会社に戻る形です。このコースは、地震の影響で事業活動を一時的に縮小せざるを得ない会社が、解雇ではなく出向で雇用を守るとき、出向期間中の賃金の一部を出向元と出向先の双方に助成します。
| 項目 |
内容(2026年10月23日時点) |
| 助成を受けるのは |
出向元の事業主と出向先の事業主(労働者個人ではありません) |
| 出向元 |
熊本県に所在する雇用保険適用事業所の事業主 |
| 出向先 |
全国の雇用保険適用事業所の事業主 |
| 対象の出向 |
2026年10月1日から2027年9月30日までに始まり、期間は1か月以上1年以内。終了後は元の事業所に戻る |
| 助成率 |
中小企業4/5、中小企業以外2/3 |
| 上限額 |
1人1日9,110円(出向元と出向先の合計) |
| 助成の対象になる賃金 |
2027年9月30日まで(出向がそれを超える場合も同日まで) |
| 手続きの窓口 |
原則として熊本労働局(ハローワークが受け付ける場合もあります) |
熊本地震特例の産業雇用安定助成金 出向元・出向先の要件と助成率作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省 産業雇用安定助成金(熊本地震特例)ガイドブック
ニュース記事で「未確認」だった点の答え
| 前の記事で未確認だった点 |
分かったこと |
| 対象になる会社 |
出向元は熊本県内の事業所、出向先は全国。細かい要件は次の節以降 |
| 支給額・助成率 |
中小企業4/5、中小企業以外2/3。1人1日9,110円が上限 |
| 施行日 |
支給要領は2026年10月22日から施行。2026年10月1日以降に始まった出向にさかのぼって適用。省令そのものの施行日は、e-Govの結果公示には書かれていません |
| 申請の期限 |
支給申請は支給対象期の末日の翌日から2か月以内。計画届は出向開始の前日まで(事後提出の例外あり) |
出向元(熊本県内の事業所)の要件
出向元になれるのは、熊本県に所在する雇用保険適用事業所の事業主です。雇用保険の非該当施設として承認を受けている施設は、一定の条件を満たせば、その施設単位で申請できます。次の条件を満たす必要があります。
- 令和8年熊本地震に伴う経済上の理由で、事業活動の縮小を余儀なくされていること
- 売上高や生産量などの生産指標が、最近1か月の値で前年同期より10%以上減っていること
- 出向について、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)と書面で協定を結ぶこと
「最近1か月」は、計画届を出す月の前月です。比較する月が2026年7月以降になるときは、「前年同期」を「2025年7月から2026年6月までの任意の1か月」と読み替えます。
地震で事業所が直接の被害を受けたかどうかではなく、「経済上の理由」があるかどうかで判断されます。ガイドブックには、客数や売上の減少、修理業者の手配や部品の調達が難しく早期の修復ができない場合などが、対象となる理由の例として挙がっています。毎年繰り返す季節的な変動は、対象になりません。
対象になる従業員
対象は、出向元に雇用されている雇用保険の被保険者で、計画届に載せた人です。次の人は除かれます。
- 出向の前日までの被保険者期間が6か月未満の人
- 解雇を予告された人、退職願を出した人、退職勧奨に応じた人
- 日雇労働被保険者、特例高年齢被保険者
- 出向開始日以前の直近1か月に、熊本県外で勤務した日数が所定労働日数の半分以上の人
出向先(全国)の要件
出向先は地域の指定がなく、全国の雇用保険適用事業所の事業主が対象です。出向先には、出向元とは別の条件があります。
- 出向開始日の前日から6か月前の日以降、出向労働者の受入れに際して、事業主都合で被保険者を離職させていないこと
- 雇用量が大きく減っていないこと(最近3か月の平均が前年同期に比べ、中小企業は10%超かつ4人以上、大企業は5%超かつ6人以上減っていない)
- 自社の労働者について、雇用調整助成金や産業雇用安定助成金(出向元として)などを受けていない、または受けようとしていないこと
最後の条件は見落としやすい点です。厚生労働省のFAQは、出向先が自社の労働者で雇用調整助成金を受けている場合、出向先として本コースを申請できないとしています。
受け入れられる人数にも上限があります。出向先事業所ごとに、1年度で500人分です。ただし、最初の計画届の前日に雇用保険の被保険者が500人未満なら、その人数分(10人未満なら10人分)になります。
出向の条件 同意・契約・賃金・独立性
助成の対象になる「出向」には、次の条件があります。
| 条件 |
内容 |
| 目的 |
雇用の維持。経営指導や人事交流が目的のもの、労働者を交換し合うものは対象外 |
| 本人の同意 |
「出向に係る本人同意書」(様式第5号)に、本人が自署する |
| 契約 |
出向元と出向先が出向契約を結ぶ |
| 独立性 |
親会社と子会社の間、代表者が同一の会社の間は対象外。資本金の50%超の出資、取締役の兼務なども判断される |
| 期間 |
労働者ごとに1か月以上1年以内で、元の事業所に復帰する |
| 賃金 |
出向前の賃金の85%以上115%以下。どちらの会社が払ってもよい(全額負担も可) |
| 部分出向 |
出向先で働く日と同じ日に出向元でも働く形は対象外。月の出向先の勤務日数が、出向前の所定労働日数の5分の1以上必要 |
出向中の雇用保険をどちらで適用するかは、出向協定書と出向契約書に書いておきます。出向は働く環境が大きく変わるため、ガイドブックも、本人への十分な説明と労働条件の明確化を求めています。
助成額の計算 中小企業4/5、上限は1日9,110円
助成の対象は、出向期間中に出向元または出向先が、出向労働者に賃金として払った額です。社会保険料は含みません。
| 区分 |
資本金または従業員数 |
| 小売業(飲食店を含む) |
5,000万円以下、または50人以下 |
| サービス業 |
5,000万円以下、または100人以下 |
| 卸売業 |
1億円以下、または100人以下 |
| その他の業種 |
3億円以下、または300人以下 |
この表に当てはまると中小企業で、助成率は4/5です。当てはまらない会社は2/3です。1人1日の上限は9,110円で、これは雇用保険の基本手当日額の最高額(2026年8月1日時点)です。毎年8月に改正されます。
厚生労働省のリーフレットには、中小企業の例が載っています。出向中の賃金が1日10,000円で、出向元が2割、出向先が8割を負担した場合です。
|
賃金の負担 |
助成額 |
実質の負担 |
| 出向元 |
2,000円 |
1,600円 |
400円 |
| 出向先 |
8,000円 |
6,400円 |
1,600円 |
合計の助成額は8,000円で、上限の9,110円に収まります。上限を超えるときは、負担した割合で上限額を分けます。ガイドブックの例では、20日分の上限は182,200円(9,110円×20日)です。負担が出向元50,000円、出向先150,000円なら、出向元は45,550円、出向先は136,650円になります。
1人あたりの助成は、同じ事業主に雇用された同じ労働者について12か月(365日)までです。
手続きの流れと期限
計画届と支給申請は、出向元が出向先の書類もまとめて提出します。出向元と出向先が別々に出すことはできません。
出向の手続きの流れ・期限・主な書類作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省 産業雇用安定助成金(熊本地震特例)ガイドブック
- 社内の準備: 労使協定、出向規程、本人の同意を整えます。
- 出向契約: 出向元と出向先が、期間、処遇、賃金の負担などを取り決めます。
- 計画届: 出向開始の前日までに出します(2週間前までが目安)。
- 出向の実施: 支給対象期は、1か月から6か月の範囲で出向元が選びます。
- 支給申請: 支給対象期の末日の翌日から2か月以内です。
- 書類の保存: 支給決定日の翌日から5年間です。
計画届には、事後提出の特例があります。出向の開始日が2026年10月1日から2027年1月31日までのものは、2027年1月31日までに出せます。支給要領も、初回の計画届が2027年1月31日までなら事前に届出があったものとみなす、としています。
| 場面 |
期限 |
| 計画届(原則) |
出向開始の前日まで |
| 計画届(開始日が2026年10月1日から2027年1月31日) |
2027年1月31日まで |
| 事業活動の状況に関する申出書(様式第3号)など |
計画届から1か月後と初回の支給申請日のいずれか早い日まで |
| 支給申請 |
支給対象期の末日の翌日から2か月以内 |
| 書類の保存 |
支給決定日の翌日から5年間 |
主な書類
計画届には、出向実施計画届(出向元は様式第1号、出向先は様式第2号)、出向先事業所別調書、出向に係る本人同意書、労働組合等との協定書、出向契約書、月次損益計算書や総勘定元帳などの生産指標の書類、就業規則や給与規定を添えます。支給申請には、支給申請書(様式第6号(1))、賃金の補填額・負担額の調書、支給対象者別の支給額算定調書、支給要件確認申立書、出向の実績を示す書類を出します。
出向元と出向先の間の賃金の負担は、A型からG型までの7類型のどれかに当てはまる必要があります。両社の間で金銭の補助をするなら、最後の支給対象期の申請期限までに行います。
雇用調整助成金の特例とどう使い分けるか
出向のほかに、休業や教育訓練で雇用を守る方法があります。その場合は、令和8年熊本地震に伴う雇用調整助成金の特例措置が使えます。
| 項目 |
雇用調整助成金の特例 |
産業雇用安定助成金の熊本コース |
| 方法 |
休業、教育訓練、出向 |
在籍型出向 |
| 対象の地域 |
全国の事業所(一部の措置は熊本県内のみ) |
出向元は熊本県内、出向先は全国 |
| 対象の期間 |
休業等の初日が2026年7月28日から2027年1月27日 |
出向の開始が2026年10月1日から2027年9月30日 |
| 助成率 |
休業・教育訓練は中小企業2/3、大企業1/2 |
中小企業4/5、中小企業以外2/3 |
| 上限 |
1年間で100日 |
1人365日、1人1日9,110円 |
雇用調整助成金の特例には、生産指標の確認期間を3か月から1か月に短縮する、計画届を事後に出せる、といった緩和があります。熊本県内の事業所だけに、残業相殺の撤廃や、教育訓練の実施状況による助成率引き下げの撤廃も適用されます。
2026年10月27日までに休業等実施計画届を出せば、2026年7月28日以降の休業等が助成の対象になります(厚生労働省のQ&A)。まだ出していない場合は、来週火曜までに間に合うかを早めに確認してください。
雇用調整助成金の特例を使っている事業主は、産業雇用安定助成金の申請で、重なる書類の一部を省略できます。協定書関係の書類、就業規則や給与規定、事業所の概況に関する書類などです。ただし、生産指標の書類は改めて出す必要があります。
休業手当と解雇の基本
事業を休む場合の休業手当は、労働基準法第26条で、使用者の責に帰すべき事由による休業なら、平均賃金の60%以上を払うと定められています。厚生労働省のQ&Aは、天災事変などの不可抗力なら支払義務はないとしています。
不可抗力とは、原因が事業の外部で起きた事故であり、通常の経営者が最大の注意を尽くしても避けられないものです。事業場の施設・設備が直接の被害を受けて休業する場合は、原則として使用者の責に帰すべき事由にあたらないと考えられます。取引先や交通の被害で仕入れや納品ができず休業する場合は、原則として責に帰すべき事由にあたり、例外は取引先への依存の程度などを総合して判断されます。
支払義務の有無にかかわらず、厚生労働省は、労使でよく話し合って労働者の不利益を避けるよう求めています。一時的に事業を休む場合も、解雇や雇止めではなく、休業等による雇用の維持に努めてほしいというお願いも出ています。
令和8年熊本地震の雇用関係の特例 公式で確かめられたもの
厚生労働省の「雇用・労働に関する特例措置や支援制度」のページで確かめられた特例を、会社の担当者に関係するものに絞って表にしました。
| 特例 |
内容 |
問い合わせ先 |
| 雇用調整助成金の特例 |
休業・教育訓練・出向。休業等の初日が2026年7月28日から2027年1月27日 |
労働局、ハローワーク |
| 産業雇用安定助成金の熊本コース |
この記事で解説した在籍型出向への助成 |
熊本労働局、ハローワーク |
| 雇用保険の基本手当の特別措置 |
災害救助法の適用地域の事業所が事業を休止・廃止し、一時的に離職した人は、再雇用が予定されていても基本手当を受給できる。被保険者期間6か月以上などが要件 |
ハローワーク |
| 失業認定日の変更など |
認定日に来所できなければ来所可能な日に変更できる。居住地以外のハローワークでも手続きできる |
ハローワーク |
| 労働保険料等の申告・納期限の延長 |
熊本県八代市、宇土市、宇城市、八代郡氷川町の事業場。2026年7月28日以降に来る期限が対象。延長後の期限は、ページに掲載されるのを待つ |
労働局の労働保険徴収担当 |
| 労働保険料の納付の猶予 |
事業財産に相当の損失(おおむね20%以上)を受けた場合、申請により原則1年以内。保険料の免除ではない |
労働局の労働保険徴収担当 |
| 厚生年金保険料等の口座振替の停止と納付の猶予 |
被災した事業主が納付困難な場合、申請により猶予を受けられる場合がある |
厚生労働省のページに記載 |
| 中小企業退職金共済・財形制度 |
掛金納付期限の延長、共済手帳の再交付など |
勤労者退職金共済機構、厚生労働省のページ |
| 特別労働相談窓口 |
熊本労働局管内のハローワーク、労働基準監督署に設置 |
熊本労働局 |
令和8年熊本地震 会社の雇用関係の特例作成: 編集部 / もとの資料: 厚生労働省 雇用・労働に関する特例措置や支援制度
雇用保険の基本手当の特別措置を使った人は、その離職前の被保険者であった期間が、再び被保険者になっても通算されません。従業員への説明のときは、この点も伝えてください。
今日からできること
被災地の会社(出向元になる可能性がある会社)は、次の順で進めます。
出向を受け入れる会社は、次を確かめます。
出向先を探すときは、公益財団法人産業雇用安定センターが、在籍型出向のマッチングを無料で支援しています。熊本県の事務所の電話番号は、厚生労働省のリーフレットに096-359-3526と記載されています。助成金の申請窓口ではないので、手続きは労働局またはハローワークに確認してください。
従業員に出向を打診するときは、決めつけず、事情と条件を落ち着いて伝えます。次は一例です。
最後に、個別の判断は事業所を管轄する労働局やハローワークに確認してください。この記事は2026年10月23日時点の公表資料にもとづきます。要件や様式は変更されることがあるため、申請の前に最新のガイドブックと支給要領を確認してください。